歪んだ月が愛しくて2
「ところで姫がここにいると言うことは、当然アゲハさんの許可を取って来たんですよね?」
「関係ないわ。私は私の意志でここにいるのよ」
「取って来たんですよね?」
「関係ないって言ってるでしょう」
「……つまり取ってないんですね」
「貴方バカなの?何度も同じこと言わせないで頂戴」
「はぁ…」
あ、取ってなんだ。
「駿河、どう言うことだ?」
頼稀の声色が少しだけ低くなる。
「そ、それが、総長に電話掛けたんだけど繋がらなくて…。あ、でもメールは入れたから大丈夫だよ!」
「何が大丈夫なんだよ。全然大丈夫じゃねぇから」
頼稀は両腕を胸の前で組むと呆れた様子で深い溜息を漏らした。
「全くお前がついていながら…。あの人が極度のシスコンなのは分かってるだろう?」
「ご、ごめん…」
先程から一方的に責められまくってる伊月さんが更にショボンと落ち込むその姿に、頼稀は良心の呵責に耐え切れず「まあ、今日は学園に缶詰だからいいが…」と言葉を濁した。
そんな伊月さんを不憫に思ったのは俺だけはなかった。
「頼稀、お説教はそのくらいで勘弁してやれよ。駿河も端っからうちに来るつもりだったから安心してたんだろうし」
「そう言う油断が命取りになるんですよ」
「そりゃお前の立場から言えばそうだけどさ。駿河も辛い立場なんだよ。お姫様の破天荒ぶりは今に始まったことじゃないだろう」
「まあ…」
「ちょっと、それどう言う意味よ?」
「え、分かんない?はっきり言ってあげようか?」
「結構よ。相変わらず嫌味な男ね」
「ありがとう。褒め言葉として受け取って置くよ」
「褒めてないわよ」
結城さんと親しげに話す、彼女。
未だに彼女の正体は分からない。
でも皆から“姫”と呼ばれて、副隊長の伊月さんが護衛するほど大切にされている人。
つまり彼女は“B2”の関係者、若しくは“B2”にとって大切な存在と言うことになる。
「結城さん」
彼女が再び頼稀達と話をしたタイミングで、俺は小さな声で結城さんを呼んだ。
「ん、何?」
「あの子って誰なんですか?姫って呼ばれてますけど…、姫ってことは総長の彼女とか?」
……あれ、待てよ。
“B2”の総長はアゲハだからアゲハの彼女ってことか?
いや、でもアゲハは九澄先輩のことが好きだったはずじゃ…。
「あれ、さっき名乗ってたのに気付かなかった?」
『お初にお目に掛かれて光栄です。私、九條院天羽と申します。以後お見知りおきを』
「くじょー………あっ!」
「そう、あのお姫様はアゲハの妹だよ」
言われてみれば、どことなく似ている。
特に日本人離れした整った顔立ちと、瞳の色はアゲハと一緒だった。
「お前、今頃気付いたのかよ」
「いや、だって、アゲハに妹がいたなんて知らなくて…」
「前に話したけどな」
「そうだっけ?」
彼女がアゲハの妹。
でもいくら総長の妹だからって態々副隊長の護衛を付けるものだろうか。
「それだけじゃないよ。あのお姫様はね、ああ見えても“B2”のNo.2なんだよ」
「えっ、No.2ってことはまさか副長!?」
「見えないよね。俺だって初めは信じられなかったよ」
見えないどころの話じゃない。
だって女の子だし、妹ってことはアゲハよりも年下のはず。
正直中学生くらいにしか見えないのに、そんな彼女が“B2”のNo.2である副総長なんて信じられない。
「悪かったわね、見えなくて」
「あ、聞こえちゃった?ごめんね〜」
「思ってないくせに」
「嘘が吐けない性格なんだよね」
「直した方がいいんじゃない?」
でもこれで護衛が付いてるのにも納得がいく。
しかも自分の妹が副長だから余計にアゲハも心配なんだろうな。