歪んだ月が愛しくて2
「当時、私はまだ13歳で暴走族のことなんて何も知りませんでした。でもあの時のことは今でも鮮明に覚えています。貴方を初めて見た時、心が震えました。そして本物の恐怖と言うものをこの身で実感した瞬間でした」
「………」
彼女に恐怖を与えたのは間違いなく俺のせいだ。
俺のせいで彼女の心に根深い闇を植え付けてしまったとしたら、俺はどうやって償えばいいのだろうか。
過去の過ちを後悔したところで、今更どうすることも出来ないのは分かっている。
でもこのままでいいわけがない。
「あまりの恐怖に暫くその場から動くことが出来ませんでした」
……分からない。
俺はどうやって償えばいい?
「でも次第に恐怖以外の別のものが込み上げて来たんです。それが今ここにあるものです」
「ここ?」
アゲハの妹は自分の左胸を両手で押さえた。
「……心?」
「はい。貴方と出会ってとてつもない恐怖を感じたと同時に、その圧倒的で驚異的な力に心が震えました。言葉には言い表せないこの気持ち…。一つだけはっきりしているのは、あの日あの瞬間から私の頭の中には貴方しかおりません」
自分の目と、耳を疑った。
彼女は俺を恐れていない。
彼女の心に根深い恐怖を植え付けた、俺を。
(何だ、この子…)
目見えてるのか?頭イカれてるのか?
何であの場面を見ていてそんな目を輝かせて俺を見れるんだよ。
理解出来ない。
俺にはこの子の真意が分からなかった。
理解出来ない感情ほど気持ち悪いものはない。
答えが分からない難問にぶち当たったような感覚に頭がクラクラした。
そう言えば陽嗣先輩に宿題出された時もこんな感覚だった気がする。あの時ほど頭ん中は真っ新じゃないし、彼女の俺に向ける感情が何なのか分からないほど無知でもない。でもだから理解出来なかった。彼女が俺に向ける感情も、そんな彼女の真意を理解したいと思う自分自身も。
「……何か告白みたいだね」
「こっ!?」
途端、アゲハの妹は頬を赤く染めて狼狽えた。
そんな俺達の様子を終始窺っていた外野が一斉に騒ぎ出す。
「ちょ、ちょっと白夜叉さん!姫様になんてことを言うんですか!?」
「出たね、タラシ発言」
「やっぱり人気者は言うことが違うね」
「え、タラシ?何が?」
「……それ本気で言ってる?」
「コイツはそう言う奴だ」
俺、何か変なこと言ったかな?
「と、兎に角っ、今日汐達に無理言って連れて来てもらったのは、この想いをどうしても貴方に伝えたかったからなんです!」
「………」
何でそんな一生懸命になれるんだろう。
俺のことなんか記憶に留めておく価値すらないのに。
分からない。
彼女は不思議な人だ。