歪んだ月が愛しくて2
「……終わった?お姫様の愛の告白」
「あ、愛っ!?そ、そんなんじゃないわよ!適当なこと言わないで頂戴!立夏様に失礼でしょう!」
「そうですよ!別に姫様は白夜叉さんに恋愛感情を抱いてるわけじゃないんですから!」
「それはどうかな〜」
「案外そう言うのって本人は気付いてない場合が多いんですよね。どっかの誰かさんみたいに」
「……誰かさんって誰のことだよ?」
「自分の胸に手を当ててよーく考えてみたら」
「姫、不純異性交遊はまだ早いってアゲハさんに言われてたでしょう?まあ、相手立夏なら逆に喜ぶと思いますけど」
「よ、頼稀っ!?貴方までこのペテン師の話を鵜呑みにしないで頂戴!てか、お兄ちゃんには絶対にこのこと言わないでよね!」
「それって告白のことですか?」
「もうっ、だから違うんだってばぁ!!」
「はいはい、お前等が仲良いのは分かったからちょっと落ち着こうな。毎度のことながら見てて飽きないけど、―――そろそろ気持ち切り替えろよ」
途端、結城さんが纏うオーラがガラリと変わる。
その表情は先程までのものとは違い、顔から感情が抜け落ちていた。
何の感情も読み取れない、正に「無」。
……ああ、こう言う顔も出来るのか。
やっぱり侮れないな、この人は。
結城さんの言葉にこの場にいる全員の目付きが一変する。
「やっと来たか」
「ど、どう言うことよ?やっとって…」
「気付かれたみたいですね」
「気付かれたって、まさか…」
「多分“鬼”だろうな。若しくはその傘下ってところかな」
結城さんはカウンター内に設置された防犯カメラの映像を見ながら答える。
いつの間にか結城さんの表情は戻っていた。
そんな暢気な声とは裏腹に、店内にはピリピリとした緊張感が漂う。
(やっとか…)
スッと目を伏せて、店内に漂う緊張感に身体を預けた。
「店の外に複数のお客さんが出待ちしてるみたいだよ。お姫様達が来てからずっとね」
「ちょっと、私達が連れて来たって言いたいの?」
「でも尾けられてた感じはしなかったけどな…」
「はい。俺も確認しました」
「……姫、ここには何で?」
「車よ。その車もここから離れた場所で待機させてるわ」
「成程な…」
「何が成程なのよ?1人で勝手に納得してないで私達にも教えなさいよね」
「つまり狙いはお姫様達じゃないってことだよ」
「私達じゃない?それじゃ…」
「間違いなく白夜叉だろうな」
「立夏くんを?」
「でも僕達“B2”を狙ってる可能性もあるんじゃないの?現に僕達がここに来てからベタ張りされてるわけだし」
「それは考え難い。だとしたらお前達が尾行に気付かないはずないからな」
「そう。だから外にいる連中はお姫様達を追ってここに来たんじゃなくて、元々ここを見張るつもりでやって来たってこと。それが偶々お姫様達の方が先にここに到着したってだけ。まあ、何にせよ最悪なタイミングには変わりないけどね」
「最悪?」
「立夏くんが一番心配してたことが起きたってことだよ」
「みたいですね」
「そ、そんな…」
俺が一番心配していたこと、か…。
頼稀ならまだしも何で結城さんがそんなことまで知ってるんだろう。まあ、考えたって仕方ないか。情報が武器の専門家を探ろうなんて、そんな命知らずなことしたら自分で自分の首を絞めるようなものだ。
俺が心配していたこと、それは俺のせいで無関係な人達を巻き込むことだ。今回で言えば“B2”と結城さん。そしてこの店に通う常連客。
だからどうにかしてこの状況を回避して、俺と彼等が無関係であることを証明しなければならない。
……となれば、俺がやることは一つしかない。