歪んだ月が愛しくて2



「申し訳ありません!私が勝手なことをしたばかりに立夏様に大変なご迷惑を…っ!」

「天羽のせいじゃないよ」



元はと言えば全て俺のせい。
これも身から出た錆だし、俺自身がどうにかしなくちゃいけない問題だ。



「ですがっ」

「それに、多分これも頼稀の計算の内だと思うよ」

「え…」



訳が分からないって顔をする天羽を他所に、俺は頼稀と視線を合わせる。



「な、頼稀?」

「よく分かったな」

「もっと褒めてくれてもいいけど」

「偉そうに。どうせお前もそのつもりだったんだろう?」

「頼稀の作戦に乗っただけだよ」

「どうだか」



フッと鼻で笑う頼稀に釣られて俺の口角が自然に上がる。
そんな俺と頼稀を交互に見比べる天羽は更なる疑問符を浮かべていた。



「ど、どう言うことですか?私達のせいでご迷惑をお掛けしたのでは…」

「だから天羽のせいじゃないってば。ほら、そんな顔しないで」



自分のことばかり責める彼女を安心させてやりたくて、天羽の頭の上にポンッと手を乗せた。
すると天羽は何を思ったのか俺を見上げて頬を染めた。



「あれ、顔赤いけど大丈夫?風邪?」

「あ、いえ、これは…っ」

「これは?」

「っ、」

「ちょ、ちょっと白夜叉さん!気安く姫様に触らないで下さい!」

「あ、ごめん」



伊月さんって何か小姑みたいだな…。

いや、護衛の鑑って意味でね。嫌味じゃないよ。



「姫が気にすることじゃありません。連中がここに目を付けるのは分かっていましたから」

「だから!その意味が分からないって言ってるのよ!」

「……囮、ですか?」

「ピンポーン。でも囮に使ったのはお姫様達のことじゃないよ。頼稀が囮に使ったのはここ」

「ここって、店?」

「そう。お姫様も知ってると思うけど、うちは一芸さんお断りだから基本的にシマの人間か“B2”、若しくはその傘下以外の立入りは禁止。それは“B2”がシマを仕切るようになってからずっと変わってない。つまりこの金牛で唯一余所者が出入り出来ないのはここだけってわけ」

「連中が何らかの理由で“B2”と白夜叉に繋がりがあると踏んでいる以上、ここに目を付けるのは想定内だ。何せここは絶好の密会場所だからな。まあ、当初の計画では適当に街の中を走らせて連中を誘き寄せるつもりだったからここを巻き込むつもりはなかったんだが」

「そっか。だから連中は端っからここに目を付けていたんだ」

「それなら俺達に尾行が付いていなかったのも頷けますね」

「ああ。お前達がここに来たのは想定外だが、普通に考えれば“B2”であるお前達がここにいるのは不思議なことじゃない」

「ね、だから天羽が気にすることじゃないって言っただろう?」

「立夏様…」

「そんな顔しないで、大丈夫だから」

「………」



それでも天羽の表情は曇ったままだった。
どうしたものかと考えていたところに遊馬の声が割って入る。



「で、これからどうするんですか?頼稀くんはこれを利用するつもりなんですよね?」

「連中が気付いたってことは俺達も動くんだよね。作戦は?」

「ない」

「え、ないの?」

「ああ。それとお前達は動くな。連中を片付け終えるまでここで待機してろ」

「ちょっと頼稀!ないってどう言うことよ!しかも私達に待機してろって一体何考えてんのよ!?立夏様を危険な目に合わせたら許さないからね!」

「合わせませんよ。それに作戦なんてまどろっこしい真似は立夏も望んでませんしね」



妙に説得力のある言葉だ。

やっぱり頼稀には何でもお見通しってことか。



「だろう?」



でも、嫌いじゃない。

寧ろ好きだよ、頼稀のそう言うところ。



「強いて言うなら、殲滅かな?」


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