歪んだ月が愛しくて2
洸Side
「立夏様…」
立夏くんと頼稀が店を出た後、お姫様はあるはずのない幻影を見つめて言葉を漏らした。
「だ、大丈夫ですよ!白夜叉さんが負けるはずないじゃないですか!」
「そうだよ!立夏くんは最強なんだぜ!」
「それは姫もご存知のはずでは?」
「……白夜叉様は最強。誰にも負けるはずない。そんなこと分かってるわよ。私はそんなこと心配してるんじゃないの。私は…」
グッと、お姫様は言葉を詰まらせた。
『強いて言うなら、殲滅かな?』
あの時、立夏くんから感じた殺意と狂気。
普通の人間はあれを直に浴びたら怯んで動けないだろう。
現に俺を含めた全員が威圧感と息苦しさに言葉を詰まらせていた。
でもお姫様はただ怯えているだけじゃなかった。
立夏くんの今と、未来を案じて危惧していた。
「寂しい?」
俺の問いにお姫様は目尻を下げて答えた。
「……ええ、寂しいわよ」
「元気出して下さい。きっとまた会えますよ」
「勘違いしないで。私が寂しいって言ったのは何もお会い出来ないからじゃないわ。私が寂しいのは、私が無力だからよ…」
「………」
お姫様は両手を固く結んで必死に感情を制御しようとしていた。
それを表に出さないところは流石だね。
幼くして“B2”の副総長に抜擢されただけのことはある。
お姫様なのは見た目だけ。口を開けば喧しいし、特別喧嘩が強いわけでもないし、考え方だってまだまだ甘っちょろいガキだ。
でもガキはガキなりに曲げられない信条ってものがあって、どう言うわけか“B2”には彼女を慕う者が多い。
その小さな身体に彼女は一体何を秘めているのだろうか。
不思議だね。
でもこれだから“B2”は面白い。
首突っ込みたくなるって言うか、手を貸したくなるって言うか。
「放って置けないね…」
立夏くん、君もだよ。
ずっと会いたかったんだ。
そしてどんな形でもいいからこの場所に足を踏み入れて欲しかった。
あの人達が過ごしたこの場所を、君に直接見て感じてもらいたかった。
君にその記憶がなくても、君の中に流れる血は間違いなくあの人達のものだから。
「姫、座って待ちましょう。連絡があるまで動かない方がいい」
「……そうね」
「結城さんいつもの三つ下さい。それと姫様には…」
「アッサムのミルクティー」
「だそうです」
「はいはい。ちょっと待っててね」
今の俺に出来ることは、君の帰りを待つことだけ。
そして祈るよ、君の無事を。
その時は「おかえり」って笑顔で出迎えて、熱々のコーヒーを淹れてあげるからね。