歪んだ月が愛しくて2
店を出てもう30分は走ったと思う。
街並みは金牛とそう変わらないネオン街に入った。
それなのに連中はどう言うわけか一向に仕掛けて来る気配がなかった。
どう言うつもりだ?
連中の考えが読めない。
「なあ、ここって…」
「双児」
「じゃあ“B2”のシマは抜けたってこと?」
「いや、ここもうちのシマだ。因みにトップ3で言うと宝瓶が“鬼”のシマで、“鴉”は隣県のZ市を根城にしている。……便宜上はな」
「“鴉”?」
「東日本No.2の“八咫鴉”だ。知ってるか?」
「……名前くらいは」
「だろうな」
「だろうなって?」
「“鴉”の正体は“鬼”以上に謎に包まれている。抗争に発展したこともなければ喧嘩してる現場を押さえたこともない。いるかいないかも分からない、正に幽霊みたいな族だ」
「幽霊…」
幽霊なんてそんなことあるわけがない。
それは頼稀だって分かってるはずなのに“幽霊”と例えると言うことは、本当に“鴉”の足取りが掴めなくて苦労してるんだろう。
「まあ、今は“鴉”のことよりも目の前の“鬼”に集中しろよ」
「……そのつもりだよ」
この機会を逃すわけにはいかない。
『このバカ!何考えてんだ!復讐なんてバカげてる!』
例え俺のやろうとしていることが間違っていたとしても、この感情に見て見ぬふりをすることなんて出来なかった。
『立夏は、俺等の仲間だ』
でもあの声が、あの瞳が、俺の復讐心を削ごうとする。
目が眩むほどの太陽の光が「復讐」と言う名の影すらも許してくれない。
だからこそ事を急いでいるのかもしれない。太陽の光にこの身が焼かれる前に。
「伏せろっ!」
ハッと、頼稀の怒声に我に返る。
咄嗟に身体が反応して頭を引っ込めると、物凄い勢いで頭上を何かが掠めてフードが取れた。
その一瞬に感じた風圧とフードを掠った音に全身から冷や汗が噴き出す。
「今のは!?」
フードを被り直して振り返ると、後方には先程擦れ違ったと思われる単車が見えた。
しかもリアシートに座ってる人物の手にはしっかりと金属バッドが握られていた。
「仕掛けて来たな」
「クソが…」
ナメた真似しやがって。
「スピード上げるぞ」
「策は?」
「この俺を誰だと思ってる?走行しながらの攻撃は想定内だ。まあ、逆送して来るとは思わなかったけどな」
こんな時まで余裕だな。
ハッタリか、それとも本当に自信があるのか。
どっちにしろ頼稀のそう言う顔、やっぱり好きだわ。
「そんじゃ、お手並み拝見させてもらいますか」
その言葉に頼稀は満足げに口角を上げてアクセルを回した。
「しっかり掴まってろよ!」
(あーあ、愉しそうだね)