歪んだ月が愛しくて2
「振り落とされんなよっ!」
その瞬間、単車が大きく傾いた。
遠心力に振り回されて俺の視界が地面に近付く。
それと同時に前方を走る2台の黒い単車と擦れ違ったのが見えた。
「チッ、まだいたのかよ」
「蛆虫が…」
頼稀が運転する単車はどんどんスピードが上がっていく。
頼稀の背中から顔を出して周囲の様子を窺うと、前方から鉄パイプを振り回した2人乗りの男達がそこまで迫って来ていた。
「躱すぞ」
「……いや、落とす」
「は?落とす?」
「頼稀はそのままスピード落とさないで突っ込んで」
「お前、まさか…」
「そのまさか」
「……殺すなよ」
「約束は出来ない」
頼稀の溜息が聞こえる。
もう何を言ってもダメだと思ったんだろう。
まあ、その通りなんだけど。
「誰に喧嘩売ったのか、ちゃんと分からせてやらないとな」
リアシートに座る男は鉄パイプを片手にタイミングを見極めていた。
そんな金属の塊が直撃でもしたら怪我だけで済まないのは目に見える。
それを分かっていてやろうとしてるんだから俺なんて可愛いものじゃないか。
「死ねぇぇえええ!!!」
下品な言葉と同時に鉄パイプが半円を描くように放たれる。
しかし、それが直撃することはなかった。
鉄パイプを寸前のところで躱し、運転している男の顔面に一発入れて2人まとめて単車から落としてやった。
案の定、襲って来た男達は漫画みたいに円を描いてぶっ飛んで行った。
「テメーが死ね」
主人をなくした単車は無人で暴れ回り、後方にいた追手の単車と激しく衝突した。
ガッシャーンと、激しい音と共に黒煙が上がる。
「……お前やり過ぎ。マジで死ぬぞ」
「半ヘルしてたから大丈夫だろう」
「そう言う問題かよ」
「それに扱い切れない玩具を使うからこうなるんだよ」
扱い切れない力は身を滅ぼす。
あの時は分からなかったが、今ならその意味がちゃんと分かる。
もう間違えない。間違えたくない。
あんな想いは、二度と味わいたくない。
そのためなら、俺は何だってする。
そのために、俺は今ここにいるのだから。
「今ので通報されたな」
「なら早いところ場所を変えよう。あっちもまだ諦めてないみてぇだし」
「ああ」
それにしてもいくら深夜のネオン街とは言え、こんな分かり易くて目立った場所で襲撃されるとは思わなかった。
通報されるリスクをまるで考えていないような行動に疑問が残る。
「てか、何かスピード落ちてねぇ?」
「態と」
「は?」
何で?