歪んだ月が愛しくて2
頼稀の単車は一度大通りに出た。
三車線の道路の車と車の間を縫うように蛇行運転して、ついに他の車を出し抜いて先頭に躍り出た。
続けて後から来た追手もいよいよ本気になったのか、前輪を上げたりクラクションを派手に鳴らしたりと挑発して来た。
「何ちんたら走ってんだ!とれぇんだよ!」
「もっと早く走れねぇのかよノロマ野郎!」
「轢き殺してやらぁ!」
そんな野太い声が聞こえて来て、その差が縮まっていることを俺達に知らせた。
「……スピードを落としてる理由は?」
蛇行運転だけが理由じゃないはず。
このままだと追い付かれるのは時間の問題だ。
「漸くあっちが仕掛けて来たんだ。これに乗らない手はない」
「乗るって…」
「このまま闇雲に走らせても埒が明かねぇ。どうせなら一度に潰した方が効率良いだろう?」
風に持っていかれそうなフードを片手で押さえながら、その言葉の意味を考えていた。
前方から向かって来る単車はない。追手は後方のみ。それも続々とエンジン音が増えて来ている。
「いつまでも逃げてんじゃねぇぞ!このクソ野郎が!」
「ぶっ殺すぞ!」
追手の声がすぐそこまで迫って来ていた。
……ああ、そう言うことか。
「えげつないよね、頼稀って」
「お前にだけは言われたくねぇよ」
(確かに…)
だって俺もこれを狙っていたから。
いや、待っていたのだ。この時を。
頼稀の単車は追手の単車にスピードを合わせるように減速する。
それを勘違いした追手の1人が勝ち誇ったような顔をして吠えた。
「捕まえたぜ!」
すぐ横からした声に、ゾクッと身震いした。
恐怖ではない。これは、歓喜だ。
俺の中にいる獣が唸りを上げて欲している。
―――黒と赤の世界を。