歪んだ月が愛しくて2
「何気失ってんだよ。チビに負けるはずねぇんだろう?」
気を失った男の腹部を、何度も何度も踏み付けて揺さぶる。
その様子を遠巻きに見ていた他の連中は口々に喚き出す。
「な、何なんだよコイツ等!?」
「化け物みてぇに強ぇぞ!」
『―――化け物!』
いつかの声が頭の中で木霊する。
「ど、どうなってんだよこれっ!?」
「本当に“B2”のPCオタクかよ!?」
「PCオタク?」
「だって、諜報って…」
「うちで言うシキさんみてぇなもんだろう?」
シキ?
ああ、さっき結城さん達が言ってた奴か。
「PCオタクは喧嘩出来ねぇとでも?」
「生憎“B2”の諜報部隊隊長様はバリバリの武闘派だけどね。ああ、それと俺“B2”じゃねぇから」
「な、何だと!?騙したのか!?」
「勝手に勘違いしたのはそっちだろうが」
人の話は最後まで聞きなさいってママに教わらなかったのかな?
「じゃ、テメーは一体…っ」
俺と頼稀は暢気に会話しながらも攻撃の手を緩めない。
次々と襲い掛かる敵を足を使って顔面を狙う。
命中すれば痛みは一瞬だけ、でも下手に避ければ後に待つのは終わりのない痛み。
簡単には終わらせない。
「まだ分かんねぇの?」
だって…、
「テメー等が血眼になって捜してるって言うから、態々こっちから出向いてやったって言うのによ」
「お、俺達が、捜してるって」
「ってことは、コ、コイツ…っ」
「ま、まさかっ!?」
敵の目には明らかな驚愕と困惑、そして恐怖の色が窺えた。
ニヤッと、無意識に口元が歪む。
「そのまさか」
俺の言葉に驚愕したのは“鬼”だけではなかった。
頼稀も俺の顔をマジマジと見て険しい表情をしていた。
頼稀の言いたいことは分かるが、フードで顔隠してるから問題はないと思う。
「コ、コイツが、あの伝説の…っ」
「一夜にしていくつもの族を壊滅させたって言う…」
「最強の族潰し!」
「しっ、し、白夜叉だぁあああああ!!!」
「マジで実在したのかよ!?」
「あんなのただの都市伝説だって言ってたじゃねぇか!」
一斉に取り乱す“鬼”。
中には口元を覆って悲鳴を上げる奴もいれば、ずるずると地面に尻餅を付く奴もいた。
そこまで取り乱すことないのに。
白夜叉の真似をして俺を誘き出そうとしたくせに、こうなることくらい予想出来なかったのかね。
「な、何で白夜叉がこんなところにいるんだよ!?」
「俺を捜してたのはそっちだろう。寧ろ感謝して欲しいくらいなんだけど」
「か、感謝って…」
「この俺が態々会いに来てやったんだよ。テメー等みてぇなクズのために、なっ!」
真っ直ぐに走り出す。
誰でもいい、ただ目の前の敵目掛けて膝蹴りを繰り出す。
「があっ!!」
1人、また1人と、地面に横たわる獲物。
でも、まだ終わらせない。
だって、そんなのつまらないだろう?