歪んだ月が愛しくて2
「乗れ」
「………」
自分の仕出かした光景を、もう一度しっかりと目に焼き付ける。
もう少しで、また手放すところだった。
俺をこっちに引き戻してくれた頼稀を、俺の大切な人達を…。
「立夏!」
自分の腑抜けっぷりは後で反省しよう。
「今行く」
俺がリアシートに跨るとエンジンが唸りを上げる。
「顔隠しとけよ。それと誰とも目を合わせるな」
「目を?」
「……まだ、治ってねぇぞ」
「………」
その言葉で分かった。
目の奥が熱くなった時に感じたものの正体。
俺の瞳は、まだ赤に囚われていた。
「分かった」
単車が発進する。
「飛ばすぞ」
パトカーから逃げるように裏路地を抜けて大通りに出ると、そこには複数の人だかりが出来ていた。
野次馬は俺達の異様な姿にヒィッと小さく悲鳴を上げて、一定の距離を保ちながら口々に恐怖の声を上げていた。
それもそのはずで、俺達は顔や上半身に付いた返り血を処理する間もなくそのままの状態で単車に乗ったため騒がれるのは当然のことだった。
その上この色を見られたら、また俺の知らないところで何を噂されるか分かったものじゃない。
「下向いてしっかり捕まってろよ」
「ああ…―――、」
不意に強い向かい風が吹いて目を瞑った。
目を開けた、瞬間。
俺の視界に映ったのは、傲慢で優しい―――光。
「……う、そ」
こんな夜の街で金髪なんてそう珍しくはない。
でもあの色を、あの光を、俺が見間違えるはずがない。
「かい、ちょ…っ」
小さな呟きは豪快なエンジン音によって掻き消された。
でも目と目が合った時、会長の口元が動いた。
声に出しては聞こえなかったが、確かにそう言っていた。
―――立夏、と。