歪んだ月が愛しくて2



頼稀Side





俺は立夏を後ろに乗せて単車を走らせる。
行きで使ったルートは用心のために使わない方がいいから少し遠回りするしかないか。
いや、今は一刻も早く立夏をここから遠ざけねぇといつまた覚醒するか分からない。
多少困難な道でも、マッポに走行ルートがバレようとも、最短距離で学園に戻るのが最優先となる。



“鬼”は、決して怒らせてはいけない夜叉を呼び起こした。





『なかったことにはさせねぇよ』





背筋を凍り付かせるような冷淡な声。



その瞬間、立夏の底知れない暗闇が一瞬だけ見えたような気がした。
立夏の闇をそこまで増幅させたのは何なのか。
鏡ノ院家の仕打ち、血縁関係のない義兄弟、そして唯一の仲間を失った絶望感。
……いや、そもそも俺達のせいだ。
他の連中のせいにしたって自分達の罪が消えるわけじゃないのに、都合の良いバカみたいな考えに笑みが零れる。





『テメー等に…、アイツを虫けらのように扱ったテメー等なんかに、アイツの仲間を語る資格はねぇんだよっ!!』





その言葉を合図に、立夏に変化が見られた。
それまでの戦い方が嘘のようにあの力を解放した。
瞳の色がグレーから赤に変わったのが何よりの証拠だ。

“鬼”は立夏の圧倒的な力と、禍々しい狂気に立っているのもやっとの状態だった。
人通りの少ない路地裏は一瞬で地獄絵図と化し、息も絶え絶えに骸の山が積み上がっていた。
その頂上の玉座に腰掛けるのは、怒りで我を忘れて暴れ狂う白き夜叉。
あんな立夏を直に見たのは、あの日以来だった。
2年前、立夏が“B2”を襲った時と同じ瞳をしていた。敵も味方も判別出来ないくらい、爛々と鈍い焔を宿して。

そんな立夏を止められる奴なんて誰もいやしない。
今でもあの立夏を一発で元に戻せたのが信じられないくらいだ。
完全に覚醒しきっていなかったから俺でも止められたんだろうが、もしあの時のように立夏が完全に覚醒していたら俺にはどうすることも出来なかっただろう。きっと全てを破壊尽くすまで、狂って狂って…。



それにタイミングも悪かった。



(よりによって、満月の日に…)


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