歪んだ月が愛しくて2
陽嗣がいなくなったブースで1人酒を飲んでいると、不意に後ろから声を掛けられた。
「楽しんでるぅ?」
女の声だった。
俺はそれに振り返ることなく適当に首を縦に振る。
「何か元気ないね。ユキくんと喧嘩した?」
女は図々しくも俺の隣に腰を下ろした。
チラッと顔を確認しても見覚えのない女だったが、向こうは俺と陽嗣のことを知っているらしく、しかも先程のやり取りまで見ていたようだ。
俺等に関心のある女。今までの俺ならこれが純粋な好奇心や好意ならその場限りの相手に選んでいただろう。―――だが。
「喧嘩?まさか、ガキじゃあるまいし」
「そうなの?ふふ、ざーんねん。落ち込んでたらミユが慰めてあげようと思ったのになぁ」
自分のことをミユと呼ぶ女は、俺の腕に自身の胸を押し付けるように腕を絡めて来る。
ぶりっ子口調と甘ったるい匂いが癇に障る。この匂いを好き好んで付けている女も、それを受け入れる側も理解出来ない。少なくとも俺の趣味じゃない。寧ろ不快だった。
「タケルくんって本当に格好良いよねぇ。まるでモデルさんみたい。髪も痛んでなくて綺麗だしぃ」
女は恍惚の表情で俺を見上げる。
そんな女の思考が手に取るように分かる。
俺に近付く人間は、肩書き、金、顔しか見ていない。
自惚れてるわけじゃないが“神代”の名にはそれだけの価値があった。
でも、俺は?
そう聞いて即答出来る奴は少ないだろう。
「ねぇ、本当にモデルだったりするぅ?」
「いや」
「本当?じゃあ何やってる人なの?」
「学生」
「え、」
「だから高校生」
「………ぷっ、あはははっ!タケルくん面白い!タケルくんみたいな人でも冗談なんて言うんだね!」
いや、冗談じゃねぇし。
「あたしミユって言うの。これでも最近は読モとかやってるんだよ」
それがどうした。
まるでそれを誇らしげに語る女は俺の腕に更に密着する。
「ミユね、今日は友達に誘われて初めてここに来たんだ。ミユ、こう言うところあんまり好きじゃなかったんだけど、友達に強引に連れて来られちゃって心細かったの…」
……成程な。
あくまで純情キャラで落としに来るつもりか。
「でも今日ここに来て良かった!だってタケルくんに会えたんだもん!」
まあ、落ちてやるつもりは毛頭ないがな。