歪んだ月が愛しくて2
ガタンッと、女は音を立ててソファーから立ち上がる。
顔と身体しか長所がなさそうなのに、その顔を達磨みたい真っ赤にさせてカッと目を見開く。そこにはもう純情キャラの影も形もなかった。
「もう何なのよ!こっちが下手に出れば付け上がって!女に恥掻かせるなんて男として最低よ!誰がアンタなんかに抱かれてあげるもんですか!」
そう言って女はヒステリックに喚き散らして店から出て行った。
まあ、これだけ好き勝手に騒いで注目を浴びれば居辛いだろうからな。
女が店を出て行った直後、1人の男性客がその後を追おうと身を乗り出したが、俺は右手を軽く上げてその行為をやめさせた。
それを見届けてからソファーに身体を預けて溜息を吐く。
「はぁ…」
まさかこの俺にこんな感情が備わっていたとはな。
この感情を自覚した時から退屈な日々が一変した。
アイツと出会ってから夜出歩く回数は減ったし、何より女を抱かなくなった。
(恋する乙女じゃあるまいし…)
でも強ち否定出来ない。
呆れるほど惚れ込んでいるのは自覚済みだ。
そして今の状態も悪くないと思っていることも。
生徒会と言う檻に閉じ込めて、その隣を陣取って、どんな些細な変化でもいいから色んな表情を見ていたかった。
ただ俺の中に潜む感情の中で、唯一現状で傍にいるだけでは満たされないものがあった。それが独占欲と性欲だ。
「重症だな」
誰でもいいなら端から適当な女を抱いて発散させてる。
誰でも良くないから困ってるんだ。
『……俺には分かるよ、白樺の気持ちが。想っても想っても報われない…、そんな気持ちを時には感情に任せてぶつけたくなる時だってあるんだよ』
『そうじゃなくて!本当に覚えてないんですよ。いつからとかじゃなくて気付いたら好きになってたんですから』
『それにお前が好きなのは昔からアイツだってことも分かってる』
例えアイツの心の中に俺がいなくても。
『させるか!アゲハくらいだよあんなことすんのは!大体、アゲハにキスされたぐらいどうってこと…っ』
……嘘だ。
いいわけがない。
あんな言葉一つでムカつくのに、俺以外の誰かを想い続ける立夏を見て耐えられるわけがない。
日に日に膨れ上がる感情に我慢が利かなくなっていた。
アイツに触れる度に醜い感情が顔を出す。
「陽嗣のことも言えねぇな…」
「俺が何だって?」
その言葉が頭上から降って来たと同時に陽嗣が俺の隣に座った。
「……何だ、拗ねてたんじゃねぇのか?」
「す、拗ねてねぇよ!俺はガキか!?」
そう言うところがガキなんだよ。