歪んだ月が愛しくて2



「てか、話逸らしてんじゃねぇよ。相変わらず自分のことになるとすぐ逃げやがって」

「逃げたのはお前だろうが」

「そ、れは…っ。兎に角、質問してるのはこっち!いいから俺が何だって言うんだよ!」

「あー……忘れた」

「この野郎、あからさまに嘘吐きやがって…」

「どうでもいいから少し離れろ暑苦しい。化粧臭ぇんだよ」

「人のこと言えんのかよ。お前だって相当臭ぇぞ。まあ、あんだけ密着されたら匂いも移るわな」

「見てたならどうにかしろよ」

「無理。俺ああ言う純情ぶってるの生理的に受け付けねぇもん。どうせその場限りの相手ならビッチの方が気楽でいい」

「同感だ」



ああ言うタイプは自分が好かれて当然だと思い込んでる節があるから一番面倒臭い。
一度でも相手にしたら本気にされかねないし、彼女面されるのも迷惑だ。ましてや性格ブスヒステリック女なんて死んでもご免だ。



「でもよ、なーんで据え膳食わなかったわけ?いくら性格ブスでも結構良い身体してたじゃん」

「あんなの食っても仕方ねぇだろう。マウントに拍車が掛かって余計に付け上がらせるだけだ」

「本当は?」

「あ?」

「当ててやろうか?」

「………いい」

「りっちゃんだろう」



いらねぇって言ってんだろうが。



「お前さ、やっぱりりっちゃんに惚れてんだろう?」

「………」



これまで曖昧にしていた部分を陽嗣が暴こうとする。
大きなお世話だと思いながらも、さっきの仕返しと言わんばかりに陽嗣が言葉を続ける。



「お前、変わったもんな」

「……かもな」

「お、珍しく素直じゃん」

「俺はいつも素直だ」

「どこがだよ」



陽嗣は一度席を立つと再びカウンターまで酒を取りに行った。



「まあ飲めよ。時間はたっぷりあるんだしよ」



酒を飲ませて何を吐かせたいんだか。
無言で酒の入ったグラスを受け取り、光に透かしてからそれを口に含んだ。



「で、ズバリりっちゃんのどこに惚れたわけ?」

「肯定した覚えはねぇよ」

「でも否定もしねぇんだろう?」



陽嗣はどこか確信めいた表情でニヤニヤと口元を緩める。
自分のことを棚に上げて俺を追及する陽嗣に無性にぶん殴ってやりたい気持ちが込み上げる。



「やっぱり顔?りっちゃん可愛いもんな」

「ハッ、心にもねぇことを」

「いんや、ありゃ誰が見たって綺麗な顔してると思うぜ。眼鏡を外せばな」

「さっきは可愛いって言ってなかったか?」

「捉え方は人それぞれだろう。俺にとっちゃりっちゃんは“可愛い後輩”だから綺麗って言うよりも可愛く見えるんだよ」

「おい、どう言う心境の変化だ?九澄に何か言われたのか?」

「別にアイツは関係ねぇよ。あくまで一般論だ」



(どうだか…)



自分の考えを矯正することは難しい。
ましてや恋敵のこととなれば意地でも矯正したくないだろう。



「で、りっちゃんのどこが好きなんだよ?」



陽嗣の性格なら、特にな。



「……少なくともアイツの無駄に強気なところは気に入ってる」



でも本当はただ虚勢を張ってるだけで誰よりも脆い。
他人を信じて裏切られることを恐れてるくせに、それでも自分のことより他人を優先してしまう悲しい性分も嫌いじゃない。
いつしか俺の中でそんな立夏が何者にも代え難い愛しい存在となっていた。



「へぇ〜」

「うぜぇ顔してんじゃねぇよ。ぶん殴るぞ」

「いやーん、暴力反対」

「死ね」


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