歪んだ月が愛しくて2
グラスが空いたところで、俺は愛用のマルボロを口に銜えて火を点けた。
「もう気が済んだだろう。この話は終わりだ」
「勝手に終わらせてんじゃねぇよ、俺の時は終わらせなかったくせに。てか、その辺のことはっきりさせとかねぇと後々面倒なことになんぞ」
「あ?どう言う意味だよ?」
「お前だって猿の気持ちには気付いてんだろう?」
「さあな」
「さあじゃねぇよ、また惚けやがって。俺は嫌だからな、兄弟間で横恋慕とか。昼ドラじゃあるめぇしよ」
「……なるようになるだろう」
「ならねぇよ。兎に角、お互いはっきりさせろよな。巻き込まれんのはご免だぞ」
「はっきり、ね…」
そう呟いて紫煙を吐き出す。
俺だって出来ることならはっきりさせたい。
だが今のアイツに俺の気持ちを伝えたところで何も響かないし、気持ちの半分も理解されないだろう。それどころか重荷に感じるかもしれない。
そうなったらはっきりさせるどころか失恋グラフしか立たないじゃねぇか。
「まさか、ビビってんのか?天下の神代財閥の次期後継者ともあろう者が」
「……かもな」
勝てない勝負はしない主義だ。
言い方を変えれば勝つためならどんな手段も選ばない。
それが俺と言う人間の本質だ。
だからどんな卑怯な手を使ってでもアイツが欲しい。
そう思っているのに、俺が欲しいものは今までの俺のやり方では決して手に入らないものだった。
「え、マジ…?」
「………」
陽嗣の問いに俺は何も答えなかった。
口に出すことを躊躇ったのは、立夏に対するこの感情を簡単に言葉にしたくないと思ったからだ。
そんな俺を見て陽嗣は「はっはーん」と知ったかぶりな態度でニヤニヤとムカつく顔をして俺の肩に腕を回した。
「猿の言葉を借りるわけじゃねぇけど、案外お前って分かり易いのな」
「言ってろ」
「みーこちゃんかーわい♡」
「殺すぞ」
自分でも驚くほど女々しい思考に、俺はテーブルの下にある陽嗣の脛を蹴って苛立ちを紛らわせた。