歪んだ月が愛しくて2
何杯目かのグラスを空けた後、バタンッと大きな音と共に3人組の女が店内に入って来た。
女達は既に酒が入っているようで、店に入って来るなりフロアに鳴り響くBGMを掻き消すほどのバカみたいなでかい声で話し始めた。
「ねぇ、さっきのあれヤバくなかった!?」
「警察に通報した方がいいのかな?」
「凄い血塗れだったもんね!こっわぁ!」
「でも下手に首突っ込んで巻き込まれんのも嫌じゃん」
「そうよ!それに仕返しされたらどうすんのよ!ああ言うのは見て見ぬふりするのが一番なんだって!」
「そうかな…」
「そうだって!関わらない方が自分のためよ!」
「でもあの人、あんな大勢の人達と喧嘩してたら怪我だけじゃ済まないんじゃ…」
「え、アンタ気付いてなかったの?あれは白夜叉よ」
その単語に、まさかと息を飲む。
俺は煙草を灰皿に押し付けて女達の声に耳を傾けた。
「えっ、それって…、あ、あああの…っ!?」
「そうよ。少し前に突然いなくなっちゃったんだけど、最近また復活したみたいでさ」
「最近この辺で噂になってるの知らない?」
「あの噂って本当だったんだ!ああ、だったらもうちょっと見ていたかったな!」
「何言ってんのよ。いくら白夜叉が自分から喧嘩売らないからって、巻き込まれない保証はどこにもないんだからね」
「そうそう。危ないことに変わりはないんだから下手に関わらない方がいいよ」
「んー……でも、さ」
「この子まだ諦めてないよ」
「アンタもさっきの見たでしょう。あんな大人数相手してたくせに白夜叉の方が一方的にボコボコにしてたのよ。ありゃ普通じゃないわよ」
「だからどっちかと言うと、ヤバいのは束で喧嘩売ってた奴等の方よね」
「でも、あれはきっと喧嘩売って来たのを返り討ちにしてただけだよ!白夜叉様は自分から喧嘩売るようなこと絶対しないもん!」
「様付け?」
「ダメダメ。この子、白羊出身だから白夜叉には並々ならぬ想いがあるみたいなのよ。めっちゃ大好きなんでしょう?」
「うんっ!でもそんな軽々しく大好きなんて言えないよ!白夜叉様のことは尊敬とか崇拝とか、そう言う類の好きなんだから!」
「うわぁ、この子マジな奴じゃん」
「アンタって白夜叉信者だったんだ。白羊出身の子って多いよね」
「当然だよ。だって白羊は白夜叉様の…「ねぇ」
途端、陽嗣の声が女達の会話を遮る。
俺は陽嗣に続いて席を立ち女達の元に歩いた。
「それどこ?」
「え?」
「ど、どこって…」
女達は俺と陽嗣の顔を交互で見つめて頬を赤く染める。
でも俺はそんな女達の視線を無視して強い口調で更に追求した。
「答えろ。どこで白夜叉を見た?」
噂の真意をこの目で確かめるために。