歪んだ月が愛しくて2
「……こりゃ、スゲー騒ぎになっちまったな。野次馬の数もさっきより増えてるし」
そう言いながら陽嗣は後方に控える野次馬の群れに目をやった。
しかし野次馬共は裏路地に足を踏み入れることなく、何故かその手前で止まったままこの悲惨な現状を見ようとはしない。
そのため規制線の手前にいる俺等と野次馬共の間にはある程度の距離があった。
「まあ、それだけあちらさんもキレてるってことか」
「キレてる?誰がだ?」
「誰って、白夜叉しかいねぇだろう」
「……白夜叉、の仕業だと言いたいのか?」
「多分な。それも本物の」
「本物?」
カンッと、不意に背後から足音が聞こえた。
その音に気付いて振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。
野次馬の誰かが怖いもの見たさで近付いて来たのか、とその時はそう思った。
「よく分かったな」
しかし男はニィッと口元を卑しく歪めて自然と俺等の会話に入って来た。
「お前が言うように、これは本物の仕業だぜ」
「……お前、キョウか?」
陽嗣が“キョウ”と呼ぶ男は、銀髪のショートに赤のメッシュの入った如何にもこの場に相応しいような奴だった。
その口元からは特徴とも言える犬歯がキラリと覗く。
「よっ、久しぶり。元気にしてたか?最後に会ったのは半年以上前だったっけか?」
「な、何でお前がここに…」
「ハハッ、お化けじゃねぇぜ」
「……漸く退院出来たってわけね」
「お陰様でな」
するとキョウは俺の存在に気付くと、ヘラっと笑った。
「お初にお目に掛かります。クラウングループ水蓮商事代表取締役の次男で水蓮桔梗と申します。以後お見知り置きを……なーんてな」
「………」
クラウングループ?
あの湯王の子飼いか。
しかし名前を聞いてもピンと来ない。
面識はないはずだが、どうやらあっちは俺のことを知っているらしい。
「ほら、前に話しただろう。コイツが“鬼”の幹部―――キョウだ」
『……別に知り合いってわけじゃねぇよ。俺も遠目からしか見たことねぇし。ただ昔一緒のチームにいた奴がそいつに相当入れ込んでたから嫌でも覚えてただけ』
「コイツが…」
東日本最強と言われる“百鬼夜行”の幹部の1人。