歪んだ月が愛しくて2
◇◇◇◇◇
Prrr…Prrr…。
「……煩ぇな」
キョウの独り言が誰もいない裏路地に響く。
一向に鳴り止まない着信音に苛立ちを募らせながら再びディスプレイを確認するが、厄介な相手からの着信に中々電話を取る気にはなれなかった。
Prrr…。
しかしこのままと言うわけにもいかない。
何より電話に出なかったことのリスクよりも、この喧しい着信音を聞かされ続けるのに耐えられなかった。
マナーモードにして置くべきだったと今更ながらに後悔する。
キョウは渋々通話ボタンを押した。
「もっしもーし。こちらクレイジーキチガイちゃんどぇーす。シキちゃんご機嫌いかがー?」
キョウは相手を刺激するように態と甲高い声で電話に出る。
『遅い』
しかしシキは挑発に乗って来ない。
これだから冗談が通じねぇガキは嫌いだ、とキョウは内心悪態を吐く。
本人に言ってやっても良かったが、それでは長電話になると思い我慢した。
『こっちは用があって電話してるんだよ。ふざけてる暇があるならとっとと電話に出ろ』
「へいへい。悪ぅございやした〜」
『……収穫は?』
「おう、そっちは上々だぜ。直接拝むことは出来なかったが、奴さんを誘き出すことには成功した。しかもアイツはまだ東都にいる。どうやら俺の願いが神様に届いたらしい」
『アンタの願いはどうでもいいけど、今後の動きを教えて』
「暫くは様子見だ。ちっとばかしやり過ぎた、キョウちゃんはんせーい」
『へー、珍しく自覚してたんだ』
「マッポも動いちまったからな。白夜叉捜しは夏まで延期だ」
『夏?』
ニィッと、キョウの口元が歪む。
「どうせならクソみてぇな最高のシュチュエーションでお出迎えしてやらねぇと、あっちにも失礼ってもんだろう?」
『……悪趣味』
「お褒めに預かり光栄ですわん」
『褒めてない。それと持ち越すのは構わないけど、くれぐれもあの人には悟られるなよ。勝手なことをしたら後が怖い』
「わーってるよ。こっちだってシロちゃんとヤり合うまでは死にたくねぇからな」
彼等の脳裏に過ぎったのは氷のように冷たいオーラを放ち異質な瞳を宿す、百の軍勢の頂点に立つ男。
怖いなんてものじゃない。
―――あの時。
何気なく発した二文字の単語に、男は表情一つ変えずに言った。
『そんなこと、自分が一番分かってる』
あの瞬間、言葉には言い表せない底知れない恐怖を感じた。
「死にたくない」と言った言葉に嘘はない。
勝手なことをしたらどんな目に合うのか分かったものじゃない。
想像しただけでも恐ろしくて、この場に立っていることさえままならない。