歪んだ月が愛しくて2
癖?習慣?
立夏Side
眩しい。
温かい光。
あの人と同じ、光。
「…ん……、」
カーテンの隙間から差し込む日の光に目を醒ますと、何故か文月さんの腕の中にいた。
文月さんの顔面ドアップと上半身裸の格好に一瞬飛び起きそうになったが、文月さんの腕が俺に巻き付いていたためそれは叶わなかった。
「ここ…」
逃げられないようにがっちりと抱き込まれているせいで、俺は顔だけを動かして周囲を観察する。
真っ白の壁紙に壁紙と同じ色の枕とベッドシーツのダブルベッド、それとは対照の真っ黒の3人掛けソファーとガラスのテーブル。そこは明らかに俺の部屋ではなかった。文月さんのマンションでも、実家でも、あの家でもない。
正直ここがどこかなんてどうでもいいが、問題は何で俺が文月さんと一緒に寝ているのかだ。
父さん達が生きている頃は文月さんが家に泊まりに来る度によく一緒に寝ていたし、父さん達が亡くなった後も何度も文月さんのマンションに拉致られることはあったが、あの頃と今では状況も環境も違う。
「何で…」
何も知らなかったあの頃には戻れない。
戻りたくても、戻れない。
だって、俺は―――。
「……何で、じゃねぇよ」
その声が聞こえたと同時に、俺を抱き締める腕の力が強くなった。
「言って置くが、お前が俺様の腰に引っ付いて離れなかったんだからな」
「今更文句は受け付けねぇぞ」と付け加えて、文月さんは気怠そうに目を醒ました。
「おはよ」
「……ん」
それなのにどこか上機嫌な文月さんはいつもとは正反対の穏やかな笑みを浮かべて、ベッドの中の俺に手を伸ばして頬に触れた。
「お前のそれも変わらねぇな」
「それ?」
「無意識かよ。それとも態とか?」
「は?アンタさっきから何言ってんの?」
「お前が大人しく俺様に抱かれて寝る時は大抵何かあった時だ」
「は…、はぁあああ!?」
予想外の言葉に目を見開く。
こんなオーバーリアクションなんかしたら文月さんの思う壺だと分かっていながらも、それでも声を上げずにはいられなかった。
「今更照れんなよ」
「照れてねぇよ!てか、気持ち悪ぃ言い方すんな!」
「本当のことだろうが。ガキの頃からのお前の癖」
「そんな癖ねぇよ!」
「はいはい。わーったから大声出すなよ、耳痛ぇから」
「だったら離れろ!」
そう言っても尚離れようとしない文月さんの身体を両手で押し返すが、ムカつくことにビクともしない。
大して筋肉質でもない身体なのに何故だ。解せん。
「だから喚くなっての」
「アンタがそうさせてんだよ!」
「まあ、何があったかは後で問い詰めるとして、身体の調子はどうだ?どこも怪我してねぇか?」
「いや、だから離れろって」
「お前が素直に答えたら離れてやるよ」
「………」
「リツ」
俺は無言で至近距離から文月さんを睨み付けるが、同様に文月さんもおふざけなしの真剣な目付きで俺を見返して来た。どうやら何の効果もなかったらしい。
「……ない」
やっぱり解せない。
こう言う時だけ真面目ぶりやがって、いつものニヒル面はどこ行った。
不意に文月さんの声のトーンが変わる。
「お前、昨日のことはどこまで…」
「……覚えてるよ。アンタが迎えに来たところまではね」