歪んだ月が愛しくて2
「だから立夏様が謝ることはございません。私が立夏様の心配をするのは、立夏様のことが大切だからです」
「哀さん…」
ドロドロに甘い。甘過ぎる。
こんな甘やかされたら勘違いしてしまう。
俺だって哀さんの弟になりたかったよ。
そのくらい哀さんの存在は温かった。
鏡ノ院家の人間に残酷な真実を突き付けられて、もう兄ちゃんやカナと家族じゃいられなくなると思って絶望していた俺に、哀さんだけは優しく接してくれた。
そんな人から「弟」と言ってもらえて嬉しくないはずがなかった。
でも、それと同時に罪悪感と後悔が押し寄せる。
「……哀さんは、優しいですね」
「そんなことはございません」
「あははっ、優し過ぎますよ」
「もし私が優しいとしたら…、それは立夏様のことが大好きだからです」
お世辞でも。社交辞令でも。同情でも。
それでも哀さんの言葉を信じたい自分がいた。
「俺も…」
でも卑屈で臆病な俺は、他人の言葉や好意を素直に受け取ることが出来ずにいつもビビっていた。
こんな俺を弟と言ってくれた人なのに。
そんな自分がいつもいつも嫌で、時々無性にこの世界からいなくなりたいと思ってしまう。
『そんな世界の中で、自分が信じられる奴を見つければいい』
それでもあの人は…、彼等はそんな俺を受け入れてくれた。
その言葉を鵜呑みにしてるわけじゃない、が。
『俺が信じるのは俺だけだ』
俺も、自分が信じた人を信じる。
『言っただろう、手伸ばせって』
スッと哀さんの前に手を出すと、哀さんは「立夏様?」と俺の名前を呼んだ後に恐る恐る俺の手に自身の手を重ねた。
「俺も、哀さんのことが大好きです」