歪んだ月が愛しくて2



俺と哀さんは手を繋いで向かい合ったまま微笑む。
でもお互いにそれ以上の言葉はいらなかった。
今朝までの自分が嘘のように、哀さんの笑顔に不安定な心が穏やかさを取り戻そうとしていた。
単純で現金な自分に嫌気が差すが、今はこの笑顔に絆されていたい。あの頃のように。



「チッ」



するとそんな俺達を邪魔するかのように、横から盛大な舌打ちが聞こえて来た。



「何が大好きだ、くだらねぇ。一々大袈裟なんだよ。いいからとっとと飯食って着替えろ」



明らかに不機嫌オーラを醸し出す、文月さん。
何怒ってるか知らないが、こっちに当たられても困る。



「別にゆっくり食ったっていいだろう…」



そこで、ふとあることに気付いた。
今俺が着ている服が明らかに自分のものじゃないと言うことに。
明らかにオーバーサイズの薄手のロンTなんて俺は持っていない。しかも白の無地なんて論外だ。そして何故ロンTだけ?下は?ズボンは?



「おいコラ。俺の服をどこにやった?」

「今頃気付いたのかよ」



文月さんは「バカだな」と言って溜息を吐く。
でも俺の欲しい返答は一向に返って来なかった。



「どこにやったって聞いてんだよ!」

「どこってクリーニング出したに決まってんだろう。あんな誰のもんか分からねぇ返り血だらけの汚ぇ服で、俺様のベッドに寝させるわけねぇだろうがタコ」

「タ、っ!?」



誰がタコだ!

タコって言った方がタコなんだよ、このタコ助!



でも文月さんの言い分は至極真っ当で反論することが出来なかった。
グッと、悔しさを堪えるようにオムライスを一気に掻き込んだ。



「ご安心下さい。今立夏様がお召しの服は私が着替えさせて頂きましたから」

「ぶぅっ!」



その一言により口に詰め込んだままのオムライスを盛大に噴き出した。



「バカ!きったねぇな!何吐いてんだよ!」

「だっ、だって!えぇえええー!?」

「……気持ちは分からないでもないがどもり過ぎだ。ほら、水飲んで落ち着け」

「あ、りがと」



文月さんから水の入ったコップを受け取り一気に喉に流し込む。



「あ、あの…何で哀さんが、俺の…」



いくら哀さんが俺のことを弟だと思ってくれているからって、流石に着替えまでやってくれていたと思うと恥ずかしさで居た堪れない気持ちになる。



「コイツが自分でやるって言って聞かなかったんだよ。あろうことか主人である俺様を締め出しやがって」

「私は立夏様の純潔を守っただけです」

「じゅ、純潔…?」

「ハッ、ガキに欲情するほど困っちゃいねぇよ」

「そうでしょうか?私には立夏様にご自分のシャツだけを着せようとした時点で危険だと判断しましたが」

「俺はロリコンか」

「違うのですか?」

「お前な…」



2人のやり取りを見ながら流石は哀さんだと思った。
あの性格破綻者の文月さんと長年一緒にいるだけはあって交わし方もお手の物だ。


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