歪んだ月が愛しくて2



「それと風紀について少し調べてやったぞ」

「え、本当?」

「哀、資料を」

「こちらです」



哀さんから1枚の紙を手渡された。
それに目を通していると一つの疑問にぶち当たった。



「……これ、だけ?」



たったの1枚。それに内容も薄い。
個人情報は皆無で概要程度のものしか記されていない



「それが理事長として把握している風紀の全てだ」

「これだけ…」

「風魔から聞いてると思うが、風紀に関する情報は極端に少ない。理事長である俺様でさえもこの程度だ」

「風紀委員が生徒会と同様に厄介視されているのはそれが理由です」



あ、やっぱり嫌いなんだ。
文月さんって本当自分の思い通りにならない人間が嫌いだよな。
流石生粋のお坊ちゃん。あの父親にしてこの子供ってわけか。



「そこでだ、強力な助っ人を呼んでやった」

「助っ人?」

「別室で待機させてる、哀」

「はい」



哀さんは文月さんに促されて部屋を出て行った。
多分、その助っ人を呼びに行ってくれたのだろう。



仮眠室に残されたのは、俺と文月さんだけ。



「……態々、呼んだの?」



これだけのために?



「元は別件だ。お前が気にすることじゃない」



どうだか。

文月さんっていつもは横暴の塊なのに時々こう言うところがあるからな。

意地が悪いのか優しいのか、俺には分からない。



「最近、生徒会の方はどうだ?」

「どうって?」

「何か変わったことはねぇか?」

「特には…」

「そうか」



文月さんはそれだけ言うと本日何本目かの煙草を口に銜えた。



「……何か、あった?」

「あ?」

「アンタがそんなこと聞いて来るなんて珍しいから」

「お前が報告しねぇからだろう」

「報告?」



何の?



「いいか、百歩……千…いや一万歩譲って生徒会にいることは許してやったが、覇王がクソ野郎なことには変わらねぇんだからな。そんなところに俺様の可愛い甥っ子を差し出してやったんだ。何かあってからじゃ遅ぇんだよ」

「……言い過ぎ」

「事実を言ったまでだ」



(事実、ね…)



実際、俺はまだ「覇王のクソ野郎な部分」を知らない。
だから文月さんや頼稀に忠告されても中々実感が沸かなくて、曖昧に答えるしか出来なかった。
でも彼等が「まともな人間」にも見えない。だからと言って何かが変わるわけでもないから、結局はどうでも良かった。



……いや、どっちでもいいのか。

クソ野郎でも、まともでも。


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