歪んだ月が愛しくて2
「……俺は、嫌いじゃないよ」
途端、文月さんは目を丸くさせて驚愕の表情を見せる。
「っ、何が…」
「覇王」
俺は彼等を嫌いになれない。お世辞にも良い性格とは言えない彼等だが、どう言うわけ一緒にいても苦に感じないのだ。
喧しい騒音も、無駄に抱き付いて来る鬱陶しいところも、口煩い仏頂面も、何を考えてるのか分からない胡散臭い笑みも、あからさまな仮面の下の素顔も、嫌いではない。寧ろそんな日常に適応している自分がいた。
初めは全力で拒絶してたくせに、今となってはこの様だ。都合が良過ぎてマジで笑える。
でも彼等にはそう思わせる何かがある。
それはまるで嵌ったら抜け出せない底なし沼のようだった。
(太陽が沼って、笑えるな…)
不意に文月さんはソファーから立ち上がると、俺の横に座って手首を掴んで来た。
そして何を思ったのか、文月さんはそのまま俺の身体をソファーに押し倒したのだ。
「な、何っ」
「………」
文月さんは俺の問いに答えない。
でも文月さんの鋭い眼差しが俺に何か訴えようとしていた。
「……何かあったのは、お前の方じゃねぇか」
「え?」
「じゃなきゃ、嫌いじゃねぇなんて…」
「………」
ゆらゆらと、炎を宿したような鋭い眼差しの中に悲しげなものが揺れていた。
(あ、この目…)
見たことがある。
前にも、どこかで…。
「、」
微かに走る頭痛。
(ああ、これも思い出しちゃいけないことなのか…)
ギュッと固く目を閉じた後、ゆっくりを目を開ける。
そこには文月さんの「傷付いてます」って顔が至近距離にあった。
「……俺、変なこと言った?」
「………」
その顔は俺がさせているんだろうか。
理由を聞いたところで、きっと文月さんは何も言わない。
言わないってことは他人に踏み込まれたくないことなんだと思う。
俺にも踏み込まれたくない部分があるからよく分かる。
「……俺、カナと会ったよ」
「、」
だから俺は何も聞かない。
本人が言いたくないことを無理にでも聞き出そうなんてそんな野暮なことはしないよ。
だってそれを聞いたところできっと俺に何にも出来ない。文月さんが望んでいるものはあげられそうにない。
「カナが、俺を捜して生徒会室に来たんだ」
ねぇ、文月さんなら知ってるでしょう?
「ちゃんと、話した」
あの頃の俺を誰よりも知ってる文月さんなら、俺に何を求めたって無駄なことくらい分かってるだろう。
「あの時の誤解も解けて、カナの…」
『でも、お前を傷付けて…、追い詰めて、やっと気付いた。ごめん…。今更謝っても許されないことだって分かってるけど、それでもやっぱりお前が好きだ。家族として、兄弟として、藤岡立夏って言う人間が好きなんだっ』
「カナの、本当の気持ちも聞けた」
「………」
―――いらない人間。
そう、俺に教えてくれたのは誰だっけな。