歪んだ月が愛しくて2



ずっと、あの日から仲間外れだと思っていた。

俺だけが他人で、いらない存在で。



でもカナは俺のことを家族だって言ってくれた。
ずっと嫌われてると思っていたカナから告白までされて、でもその気持ちに応えられないことが申し訳なくて、そんなカナのことを思うと悲しくて寂しいはずなのに、それなのに「ずっと好きだった」と言われて本当は凄く嬉しかったんだ。
弟の失恋を嬉しいなんてどうかしているな。



「―――“大丈夫”」

「あ?」

「そう言ってくれた人がいたんだ、こんな俺に…。だから俺はちゃんとカナの目を見て向き合うことが出来たんだと思う」



カナにも、俺自身にも。



「その言葉があったから、俺は…」



かつての自分に打ち勝てた…とは言えないが、少なくとも聖学に来る前の自分と今の自分では違うと思う。
心が軽くなった、とはこう言うことなんだろう。



でも、未だに拭い切れない染みがある。





―――臆病者。





(……知ってるよ)





でも、もう少し。

もう少しだけ、目を逸らしていたい。



何れ訪れる、現実から―――。



「要するに、生徒会の毒牙に引っ掛かったってことか」



文月さんはそれ以上聞きたくないと言わんばかりに俺の言葉を遮った。



毒牙、か…。

それに引っ掛かったのは俺じゃなくてあっちの方だと思うんだけどな。



「チッ、簡単に信用しやがって」

「別にしてないよ」

「いや、今のお前は奴等を信用している。……と言うより、信じたいんだろう?」

「………」



何も、言えなかった。



俺はこんな自分を受け入れてくれた彼等を信じてみたかった。
きっと文月さんはこんな俺を愚かだと笑うだろう。
俺だって少し前まではそう思ってたよ。
信じて、裏切られて、また信じて、また裏切られて。
そんな不毛なループは悲し過ぎる。
その結果、自分すらも信じられなくなって心が壊れていった。それがあの頃の自分だった。



「……信じたら、ダメかよ」



でも、彼等は教えてくれた。

自分のことも、自分に向かって手を差し伸べてくれた彼等のことも、心の底から信じられないこんな薄情な俺を「仲間」だと言って受け入れてくれた。

どんなに足掻こうとも、どんな格好悪い言い訳を並べようとも俺を見捨てないでくれた。



きっと彼等には分からないだろうな、彼等の存在に俺がどれほど救われているか。



「愚かでも、不毛でも、それでも信じたいんだ」

「、」



信じたい理由なんて挙げたらキリがない。

それだけ彼等からもらっているのだ。目紛しい日常も、太陽のような温もりも。



「それでも、信じちゃダメ?」



文月さんは俺が覇王に懐柔されたと思っているようだが、依然として俺が覇王と関わることを良しとしない。そればかりか執拗に覇王を信じるなと念を押されているように思えた。
何がそこまで文月さんを覇王嫌いにしたのか定かではないが、その凝り固まった思考を解すには懸命に説得するしか他なかった。
覇王が信じられないならせめて俺の言葉は信じろよ…、なんて言えたらいいんだけど、それもそれで難易度が高いことに気付いて口にするのをやめた。
そんなの無理だよな。
俺が人間不信ならぬ文月さん不信であるように、文月さんもこんな嘘吐きの言葉なんか容易に信じられるわけないんだ。
お互い様なのに俺にだけ強要するなんてどうかしている。



「……本当は、誰でもいいんじゃねぇのか?」



ギュッと、俺の手首を掴む文月さんの手に力が入る。



「自分を必要としてくれる奴なら、誰でも」

「は…、」



誰でもいい?





『―――いつもここにいるね』





……違う。





「アイツ等も、そうだったもんな」





『貴方に、ずっと、これを…返したかった…』





違う。



そんなんじゃない。





だってアイツ等は、もう―――。




















「ロリコンの次は虐待か?」



バンッと、扉が開いたと同時にそんな声が頭上から降って来た。

扉の向こうにいたのは、哀さんと…。



誰?


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