歪んだ月が愛しくて2
「立夏様、ご紹介致します。この方は飛鳥院悠様。ASKグループ会長のご子息であり、現副社長でいらっしゃいます」
「……初めまして、藤岡立夏です」
哀さんと飛鳥院さんの登場に、文月さんは顳顬に青筋を立てながら渋々俺の手首を離して何事もなかったかのように俺の隣に平然と座った。神経図太いな。
絶妙なタイミングの良さに俺としては色々と助かったが、隣の部屋で聞き耳を立てていたことは明白だった。
「飛鳥院悠だ。宜しく頼む」
「こちらこそ」
そう言われてソファーに座ったまま軽く頭を下げた。
哀さんが紹介してくれた飛鳥院さんは、一言で言えばキリッとしてシュッとした黒の短髪のインテリ系イケメンで、文月さんと違って妖艶さを全面に出さない真面目そうな人だった。
「この方が立夏様の助っ人です」
「助っ人…」
つまり理事長の文月さん以上に風紀を知る人。
「俺は仕事の話をしに来たんだが?」
「ビジネスの話はこの後な」
「だったら最初からそう言え。紛らわしい」
「本当のこと言ったら態々こっちまで来たか?」
「……来ないな」
「だろう」
「あの、忙しいのにすいません。でも何で飛鳥院さんが助っ人なんですか?」
「飛鳥院様はここ聖楓学園の卒業生であり、主人の数少ないご学友です」
「数少ないは余計だ」
「……相変わらずだな」
「そして何より飛鳥院様は高等部在籍中に風紀委員長を務められた方なのです」
「え、」
この人が、元風紀委員長?
「……だから、呼んでくれたの?」
俺は隣でぶうたれている文月さんを見上げた。
でも飛鳥院さんが来てからと終始不貞腐れた顔をする文月さんは俺の質問に中々答えてくれなかった。そのくせチラチラと俺の顔を見て何なの?意味が分からん。
「………」
「無視すんな」
「………」
「おい」
「……可愛くねぇ奴」
「は?」
いきなり何?
男に可愛さ求めてんじゃねぇよ。
いや、そもそも質問の答えになってないんだけど。
「まあ、お前をここに入学させた俺様にも責任の一端はあるからな」
「え…」
その言葉に耳を疑った。
責任って、まさか“鬼”のこと?
奴等の住処に俺を囲ったこと言ってるの?
「………」
「……何だよ」
「……そんなこと、考えてたの?」
「悪いかよ?」
「………頭大丈夫?」
「犯すぞクソガキ」
「やっぱりロリコンか」
「現行犯です、間違いございません」
「おい!」
信じられない。
あの文月さんが、何でそこまで…。
俺のこと嫌いなくせに。
だから俺だって…、
(ずるいよ…)