歪んだ月が愛しくて2
「それで、俺は何を話せばいいんだ?」
向かい合わせに座る飛鳥院さんは長い足を組んで俺の言葉を待っていた。
「教えてくれるんですか?」
「俺が知っていることであれば話そう」
「じゃあ風紀について知っていることを全て教えて下さい」
「全て、か…。その前に一つだけ言って置く。俺がここを卒業したのは10年も前のことだ。それを踏まえた上で聞いてくれ」
「構いません。今はどんなことでも知りたいんです」
“鬼”に繋がることなら、何でも。
「そうか」
それから飛鳥院さんは風紀について話してくれた。
飛鳥院さんは高等部に進学してから3年間ずっと風紀委員に所属し、2年に進級した時には委員長に抜擢されたらしい。
「風紀委員の規則は生徒会と同じように基本当時のトップ次第だ。代が変わる度に規則も変わっていく。ただ一つ変わらないのはメンバーが秘密裏に構成されていると言う点だ」
「だから俺様も風紀については何も知らない。報告する義務すらねぇからな」
報告義務がないと言うことは、やりたい放題が許されるってことか。そこは生徒会と一緒だな。
「何故風紀委員が秘密裏に構成されるのか、その理由を知っているか?」
「いいえ」
「それは風紀委員として円滑な業務運営を図るために必要だからだ」
「円滑?」
「風紀委員とは学園の風紀を守るために構成された組織。つまり学園の風紀を乱す者には、容赦なく制裁を加えることが公に許されている。そのため中には復讐なんてバカなこと考える輩も少なくはない。そう言う存在は円滑な業務運営に支障を来たす可能性がある。そうならないためにも風紀委員は代々組織そのものを隠すことでそれらを回避して来たんだ」
「そこまでして…」
「隠れ家には最適だな」
「……確かに」
恐らく風紀のシステムを利用するためにそこに逃げ込んだのだろう。
風紀のシステムをよく理解している者が“鬼”?……いや、聖学は結構な金持ちや頭が秀でてる人間なら幼稚舎から入ることが出来るから風紀のシステムを理解している者は五万といるだろう。それは初等部や中等部から入学したとしても同じこと。そこから辿るのはまず無理だろうな。
すると俺と文月さんの会話に疑問を抱いた飛鳥院さんが不思議そうに首を傾げた。
「隠れ家?」
「あー…そういやお前に説明してなかったが、今の風紀はちょっと厄介でな」
「厄介?そんなの毎回似たようなものだろう。お前がそんな風に言うなんて珍しいな」
「まあな。しかもその厄介な連中とやらがコイツの捜し人と来た」
まあ、良い意味じゃないけど。
「その捜し人とやらが風紀委員と言うのは確かなのか?」
「……恐らく」
頼稀の情報が確かなら奴等が風紀を根城にしているのは間違いない。
『シーロちゃん♡』
……あの男も、きっとそこにいるはず。