歪んだ月が愛しくて2



「立夏様、参りましょう」

「は、はい」



哀さんに促されて席を立つ。
哀さんの後に続いて部屋を出ようとした時、俺は文月さんに声を掛けた。



「……文月さん」

「何だ?」

「………たよ」

「あ?」

「だから、その……た…」

「た?何だよ、はっきり喋れよ。お前らしくねぇな」

「た………助かった、よ…って言いたかったの…」

「、」



そう言い残して急いで部屋を出た。
後ろの方で文月さんが振り返った気配がしたが、何だかバカにされそうだったので逃げて来てしまった。



「立夏様、大丈夫ですか?」

「何か大切なもんを失くした気がする…」

「ご立派でしたよ」



哀さんは部屋の外で待っていてくれた。
しかもちゃっかり話まで聞かれていたらしい。



「立派じゃないですよ…」



本当に立派だったら初めから素直になってる。





『ふーくん!』





あの頃のように。



「、」



まただ。

先程よりも痛みが強い。



あの頃のことを思い出すといつもそうだ。



不思議と走る痛みに頭を押さえる。



「立夏様!大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫…。いつものこと、だから…」



定期的に起こる頭痛。

偏頭痛とはちょっと違う、これは…。















―――ダメだよ、まだ。















(ああ、やっぱり…)



「リツ!」



ガシッと、突然後ろから肩を抱かれた。
その温もりに安心して文月さんの腕に身体を預けた。



「ふ、づき…さん…」



何で…。



「どうした!?頭が痛むのか!?」





『久しぶりだなリツ。良い子にしてたか?』

『うん!俺、ふーくんのことずっと待ってたんだよ!』





「だ、いじょーぶ…」





『リツ!待て…っ!待つんだ!俺の話を聞いてくれ!』

『な、で…?何で俺は皆の家族じゃないの?』





「大丈夫なもんか!頭押さえてんじゃねぇか!」





『……ふーくんも?ふーくんも、家族じゃないの?』





「兎に角、医務室に行くぞ!」

「それよりも救急車の方が宜しいのでは!」

「そう思うならとっとと電話を…っ」

「待って」



咄嗟に哀さんの手に触れて制止する。
そして反対の手で文月さんの胸を押して距離を取った。



「お、れは、大丈夫…。救急車なんて呼ばなくていいから」

「しかしっ」

「大事にしないで、いつものことだから…。すぐ治るよ」

「リツ、お前まだ…」

「だから…、大丈夫だって」



痛みは徐々に和らいで来た。
それを証明するために、頭から手を離して平静を装う。



「ほらね」

「、」

「立夏様…」



ああ、その顔…。



だからこの人達には知られたくなかったんだよな。


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