歪んだ月が愛しくて2



不意に近くの席に座っていた生徒達の声が聞こえて来た。



「聞いたかよ、昨日の事件」

「聞いた聞いた!東都で“鬼”がやられたって話だろう!」

「何でも犯人はあの白夜叉らしいぜ」

「マジか!とうとう東日本最強まで倒しちまったのかよ!」

「いや、倒したって言っても雑魚だけみたいだぞ」

「じゃあまだ幹部は健在なわけ?」

「多分な」

「てか、何でお前そんなことまで知ってんの?やけに詳しくね?」

「俺のダチがよく東都で遊んでんだよ。それで教えてもらったんだけど、今東都じゃその噂で持ち切りらしいぜ」

「流石“鬼”だな」

「それを言うなら白夜叉の方だろう。何たって白夜叉は去年のあの事件で“鬼”の幹部を半殺しに…」



ガンッと、激しい衝撃音が鳴り響く。

突然のことに、一瞬食堂内が静寂に包まれた。



勿論、音の出所は俺。
ただテーブルの脚を蹴っただけだが、白夜叉の話題を遮るのには十分だった。
ジロッと睨みを利かせれば、噂をしてた男達は慌てた様子で席を立って食堂を後にした。



「今の噂…」

「へー、昨日そんなことがあったんだ」

「そう言えば教室でも騒いでたな」



昨日のことについてどんな噂が流れようと、どうでもいい。

ただ気掛かりなのは…。



「……そんなに凄いの?白夜叉と“鬼”って」



葵のこと。



「凄いなんてもんじゃないよ!この東日本でその名を知らぬ者はいないってくらい有名で、特に東都では…っ」

「汐」

「え?………あっ、ごめん」

「謝らないで。聞いたのは僕の方なんだから」



そう言って葵は申し訳なさそうに苦笑した。



その瞳の奥に映るものは何だ。

怒り、悲しみ、そして…。



やっぱり、お前の怒りの矛先は白夜叉なのか?


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