歪んだ月が愛しくて2
「何の用で東都にいた?あそこで何をしていた?」
「………」
あまりにも突拍子のない質問のせいでポーカーフェイスを落としてしまったが、徐々に頭が冴えて来た。
と言うより一気に血の気が引いたお陰で、冷静さを取り戻せたのかもしれない。
でも現状は何も変わらない。
ああ、だから俺を生徒会室に招いたのか。
ここなら誰の邪魔も入らないし、第三者に聞かれる心配もない。
つまり神代会長もこの話が何を意味するのか、少なからず気付いていると言うことになる。
「学園を抜け出したこと言ってます?」
そうだとしたら神代会長はどこまで気付いているのか、探る必要がある。
「無断外出はお互い様でしょう。まあ、そっちが余罪も含めて追及するって言うなら甘んじて受けますけどね」
「………」
「ただ昨日は色々あって急いでたんですよ。だから致し方なく面倒な手続きを省いて外出する羽目になった…、って言えば分かりますよね?こう見えても俺は“B2”の幹部ですから余所者がシマで好き勝手やってたら追い払うのが当然の…」
「風魔」
途端、神代会長の鋭利な声が俺の言葉を遮った。
「俺の質問の意図は、お前が一番分かってるんじゃねぇのか?」
「………」
あくまで確信に触れない…、とすれば攻め方を変えるか。
「アンタが何を見て尋問めいたことしてんのか分かんないけど、アンタが見たのはアイツじゃない」
「、」
……最悪だ。
ぶっ込んでみたら案の定か。
その反応で確信した。
神代会長は立夏の正体に気付き掛けている。
立夏にとって一番恐れていたことが起きてしまった。
(よりによってこの人に…、マジで最悪)
「他人の空似とでも言いたいのか?」
「そうなんじゃないですか」
「ふざけるな」
それはこっちの台詞だ。
「だったら聞きますけど、アンタは何を見たんですか?」
神代会長は気付いていない。
自分がどれほどのタブーに触れているのか。
それは立夏にとって踏み込まれたくない過去の一部。
そして今ある記憶の中で最も忘れたいはずなのに忘れられない…、忘れたくない悲しくて苦しい過去だと言うことに。
「そこまでアイツだと言い張るなら、何かしらの根拠があって言ってるんですよね?」
踏み込ませるものか。
もう二度と立夏を悲しませない。苦しめたくない。
あの日、そう誓ったんだ。
「……はっきりと、見たわけじゃない」
それなのに、この男は更に奥深くまで触れようとする。
「ただ、あれは間違いなく立夏だ」
ギラリと、黒曜石の双眸が鈍い光を放つ。
「俺が、アイツを見間違えるはずがない」
「……大した自信だこと」
でも、そう言い切った神代会長の表情は、とても切なくて痛々しかった。