歪んだ月が愛しくて2



悠と芳行にリツの話をしたのは、もう10年以上も前のことだ。
当時俺が生徒会長で、悠が風紀委員長だった高等部時代。
そこにいつも授業をサボって生徒会室に入り浸っていたのが“B2”初代総長の芳行だった。





『はぁ…』

『何辛気臭ぇ面してんだよ、鬱陶しいな』

『悩み事か?』

『そんなんじゃねぇよ。ただ…』

『『ただ?』』

『この間、甥っ子の運動会に行ったんだが、そこでリツが駆けっこで1位を取ってな。“ふーくーん”って叫びながら俺の胸に飛び込んで来たんだよ。そん時のリツがまた可愛くて可愛くて…』

『出た。文月のリツリツ病』

『相変わらずの溺愛っぷりだな』

『違ぇよ!問題はここからだ!1位を取ったリツに他のガキ共が一斉に駆け寄って“立夏くんすごーい!”とか“将来あたしがお嫁さんになってあげる!”とか挙句の果てには“僕のお嫁さんにしてあげるよ!”とかふざけたこと抜かしやがったんだよ!確かにリツは天使のように愛くるしくて可愛い!マジで冗談抜きで可愛い!はい優勝!だからこそ俺はリツの将来が心配で心配で…っ』

『あー…はいはい。お前のロリコンぶりは分かったから少し落ち着け』

『ロリコンじゃねぇ!可愛い甥っ子がどこぞの馬の骨に食われねぇか心配なだけだ!』

『それをロリコンって言うんだよ』

『俺はお前の方が心配だ、色んな意味で』

『どこがだよ!?』

『はぁ…。5才児に本気とは痛いな』

『てか、犯罪じゃね?』

『手を出してなければセーフじゃないのか?』

『『………(ジロッ)』』

『あ?何だよその目は?』

『まさかとは思うが…』

『手出してねぇよな?』

『出すか!人を勝手に犯罪者にすんじゃねぇよ!』





(―――なんてこともあったな…)



冷静に考えてみれば、当時の2人の反応も当然か。
あの時は俺も若かったから形振り構ってられなくて色々と暴走してたのは認めるが、だからってロリコンは心外だ。
ガキなら誰でもいいってわけじゃねぇんだよこっちは。



「それにしても血縁関係がなかったとは初耳だな」

「……アイツは姉さんの子供だ。でも血は繋がってない」

「養子か?」

「ああ」

「でも確か…、彼には兄弟がいると言ってなかったか?」

「いるぜ。そっちは正真正銘姉さんの腹ん中から出て来たガキだ」

「じゃあ何故彼を引き取ったんだ?」

「知らねぇよ。ただ…」





『―――運命、かな』





姉さんはそう言っていた。
あの頃はただはぐらかされただけと思っていたが、リツと言葉を交わして、リツに触れていくうちに、本当に運命なんてもんを感じるようになった。
我ながら重症だな。そんな非現実的なものにまで縋ろうとするなんて。



「ただ?」

「……運命、だったのさ」



姉さんと、リツが出会ったのは。
そして姉さんと義兄さんが命を懸けてリツを守ったことも。



そう信じたいだけなのかもしれない。

目に見えないものに縋る行為は心の安定を取り戻すと同時に思考を盲信的にさせる。



(アイツがそうだったように…)



でもリツと出会えた奇跡を「運命」だと信じたい自分がいた。

説明出来ない事象を奇跡や運命って言葉で片付けるのは簡単だが、そうじゃない。



繋がりが欲しかったんだ。

目に見える繋がりがないからこそ「運命」って言葉で無理矢理にでも繋がろうとうしていただけなんだ。



きっと姉さんも…、そうだったんだろう?


< 299 / 651 >

この作品をシェア

pagetop