歪んだ月が愛しくて2
「帰るぞ」
「う、うん…」
頼稀は弟くんに背を向けて今来た道を戻ろうと足を進める。
俺もこれ以上は弟くんが不憫に思えて早々にこの場を去ろうと頼稀の後に続いて歩き出した時、ふと振り返ると何故か他の3人がついて来ていなかった。
「えー!もう帰んのかよ!」
「まだ自己紹介もしてないのに!」
「用は済んだ。いつまでもここにいたって仕方ねぇだろう」
「そ、そうだよ。野次馬の数もさっきより増えて来たしそろそろ帰った方が…」
「それもそうだけど…」
「てか野次馬が増えたのは頼稀のせいでもあると思うけど」
「あ?」
「勿論立夏の弟だからってのが一番だけどさ」
「ただ単に顔がいいからじゃない?」
「あ、認めた」
「チッ」
機嫌の悪い頼稀を見兼ねたのんちゃんは「仕方ない。今日のところは…」と言い掛けて渋々引き下がる。
アオとみっちゃんものんちゃんが帰る姿勢を見せたことで自然と身体を反転させて足を踏み出そうとした。
「―――違う」
しかし、その声に俺達の足が再び止まることになる。
「違う?」
「何が違うの?」
「……俺は、アイツの弟じゃない」
「、」
その言葉に息を飲んだ。
「え、弟じゃないって…」
「でも紀田ちゃんは弟だって…」
「………」
ああ、やっぱり。
嫌な予感が当たってしまった。
何で今このタイミングで言っちゃうかな。
それもリカがいないところで。
「……アイツは、ここにいるんだよな?」
「だからここに来たんだろう。それとも理事長の差し金か?」
「な、何で…っ」
「そんなことはどうでもいい。ただお前が立夏に会うつもりでここまで来たなら一つだけ忠告してやる。アイツはお前に会うことを恐れている」
「、」
「どの面下げて来たのか知らねぇが拒絶される覚悟があるって言うなら会えばいい。でもそれが嫌だったらアイツに会うのは諦めろ。お前は…、お前達はそれだけのことをアイツにして来たんだ」
「お前、どうして…」
「話は終わりだ。帰るぞ」
それだけ言うと頼稀は後ろを振り返ることなく歩き出した。
その背中を追い掛けるように他の3人も続く。
でも俺は弟くんに言いたいことがあった。
「弟くんさ、リカに会いたいの?」
「……ああ」
「何で?」
「それは…」
「ま、言わなくていいけどね。多分俺には関係ないことだし。でも頼稀が言ったことは本当だよ。リカは弟くんに会うことを怖がってる、口には出さないけどね」
「………」
頼稀の言ったことは正しい。
リカが何に恐れて弟くんを避けているのかは分からないけど、この件に首を突っ込むこと自体が余計なことだってことも分かってるけど。
でもさ、口に出して教えてあげないと分からないこともあるよね?
「弟くんがどうしてもリカに会いたいならいつでも生徒会室に来なよ。リカはそこにいるから」
このままじゃダメだってことくらい俺にも分かるよ。
リカのためにも、弟くんのためにも。
「待っていても何も変わらないよ」
一歩踏み出すか、このままここに留まり続けるかはいつだって自分次第だから。
「―――…生徒会」