歪んだ月が愛しくて2
「知ってたとしてもお前に話すことは何もない。無闇に首を突っ込むな」
『見ちまったもんをなかったことに出来るかよ』
「なら忘れろ」
『あ?』
「忘れろ。それがお前の……いや、リツのためだ」
『………』
そう言えば神代が躊躇するのは分かっていた。
でも本当のことだから仕方ない。
「お前がその喉に痞える疑問を吐き出した瞬間、リツはお前の前から姿を消す」
『………』
「お前だけじゃねぇ。この学園からも、俺様の前からも…」
リツは己の大切なものを守るためなら自分を犠牲にすることさえ厭わない奴だ。
でも反対に自分のことに関しては酷く無頓着で……いや、違うな。
「お前だってそれは本意じゃねぇはずだ。だったら余計なことに首突っ込まないで大人しくしていろ」
無頓着にしたのは、間違いなく俺達のせいだ。
『……お前等は、立夏の何を知ってる?』
「お前等?」
『風魔も、似たようなことを言っていた』
「リツが消えるって?」
『ああ』
(風魔の奴、どこまで知ってんだか…)
でもきっと風魔はそれ以上のことは話していない。
風魔は当事者じゃないし、あの件には全く関係していない。ましてや他人のことをペラペラと話すような奴をリツが信用するはずがない。
「だったら俺様の言ってることが嘘じゃないのは分かっただろう。リツを失いたくなかったら言う通りにしろ」
『どいつもコイツもオウムみてぇに同じこと言いやがって…』
「神代っ」
『アイツが消えたら諦めるのか?』
「は、」
『立夏がいなくなっただけで、お前は簡単に諦められるのかって聞いてんだよ』
神代の言葉が理解出来なかった。
「な、に言って…」
『俺には無理だ』
神代の声は先程までのものとは違い随分と落ち着いていた。
それはまるで覚悟を決めたような、そんな声に聞こえた。
『それが俺とお前等の違いだ』
俺と、神代の違い?
何が違うと言うんだ。
俺達が求めているものは同じはず。
それなのに神代には何が見えてんだよ。
俺には何が見えていないって言うんだよ。
『光に目が眩むのは結構だが、大切なものを履き違えないことだな』