歪んだ月が愛しくて2



尊Side





鏡ノ院との電話を一方的に切った後、俺は九澄に電話を掛けた。



『はい』

「俺だ」



九澄は数回のコール音で電話に出た。



『俺だ、じゃありませんよ。貴方今どこにいるんですか?今日は貴方の決裁が必要だから必ず来て下さいと言いましたよね?その耳はただの飾りですか?ちゃんと機能していないならとっとと病院に行って治療して来て下さい』

「………忘れてた」

『でしょうね』



こうなった時の九澄は大分面倒臭い。
立夏や未空がいないことをいいことに問答無用に攻めて来る。



『どいつもコイツも僕を何だと思ってるんでしょうね。貴方達の使用人になった覚えはありませんよ』

「陽嗣は、そこにいないのか?」

『いませんよ。例の如くその辺で遊んでるんじゃありませんか』

「そうか…」



陽嗣がいないなら丁度良い。



『で、用件は何ですか?態々電話して来て陽嗣がいないことを確認するってことは、それなりに秘匿性の高いお話なんでしょうね』

「昨日のことは聞いたか?」

『例の族潰しの件でしたら学園中で噂になっていますよ。何でも相手は東日本最強だとか』

「そのことなんだが…」



俺は昨日の出来事について詳細に説明した。
白夜叉と“鬼”が衝突したこと、“鬼”の幹部と遭遇したこと、そしてこれまでの騒動が全て“鬼”の仕業だったことを。
ただ立夏のことは一切話していない。いくら九澄が相手でもそれだけは話せなかった。



『呆れた、また抜け出したんですか。貴方が東都に行ったと言うことは陽嗣も一緒ですね。全く何やってんだか…。こっちは体育祭のせいで寝る間も惜しんで仕事してると言うのに、貴方達は生徒会の仕事すらまともにせず全て僕に押し付けて暢気に女漁りですか。本当いいご身分ですね。しかも“鬼”の幹部に会ったって、貴方達一体何しに行ったんですか?』

「偶然だ」

『よくもまあタイミング良く渦中の人物に会えますね。一度お祓いして来た方がいいんじゃないですか?』

「“鬼”の幹部を引き当てたのは陽嗣だ、俺じゃねぇよ」

『どうですかね。貴方のくじ運も相当なものですから』

「御託はいい。以前話してた情報屋にはもう当たったのか?」

『いえ、まだ選定中です』

「なら、その族潰しの件は一旦こっちに預けろ」

『預けろ?まさか神代にですか?』

「ああ。皇の専売特許である情報網に引っ掛からなかった以上、一度神代でも調べさせる。情報屋に頼るのはそれからでも遅くない」

『そうでしょうか?普通に考えて時間の無駄ではありませんか?』

「“鬼”の幹部…、キョウはまだ事を起こすつもりはないと言っていた。“夏になったら…”と宣言した以上、今後偽物による被害は極端に減るだろう。となれば昨日のように本物が動き出すこともない。そんな中、情報屋に頼ったところで信憑性の高い情報が得られるとは考え難い。その証拠に白夜叉の存在が世間に露見してから数年が経過してるが、これまでに噂以上の情報は何も出て来ていないからな」

『何者かが意図的に情報を隠している。だから安易に情報屋に頼ってこちらの手の内を明かすよりも信用の置ける者に一から調べさせたい…、と言うことですね』

「ああ」

『分かりました。貴方にお任せします』


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