歪んだ月が愛しくて2



「それと、このことは陽嗣に言うな」

『何故です?』

「……今は、まだ言わなくていい。神代で調べさせて何らかの情報が得られたら、万が一にも情報屋に頼ることになったら、この件について陽嗣の方から聞いて来たら…、その時は話してやれ」

『……何か、あるんですね』

「ハッ、決定事項かよ」

『今の話を聞いて何もないと思う人はいませんよ』

「今は、何もない。ただ今後は何かあるかもしれない」

『貴方が何を危惧しているのかは分かりませんが、今のところは素直に従って置きましょう』

「そうしてくれ」



陽嗣には黙ってろ、とは言ったものの詮索しない方が無理な話だ。
特に九澄の場合は、陽嗣とは仲間以上の関係だからな。



「九澄」



だが、きっと九澄は何も話さない。
俺の意図を汲み取り、その上で行動するはずだ。
惚れた腫れたに左右されて自分を見失うような人間らしい奴じゃないからな。



「キョウには気を付けろ」

『と言いますと?』

「今回の騒動の首謀者は間違いなくキョウだ。陽嗣が言っていたように白夜叉と喧嘩するためだけにこんなバカげたことを仕出かした。だが…」





『……お前が表に出てるってことは、まさかアイツか?』





「裏でキョウを操っている人物がいる」



陽嗣はキョウよりも寧ろその人物を警戒しているように見えた。
つまり、その人物はキョウよりも厄介な人間と言うことになる。



『その人物に心当たりでもあるんですか?』

「俺にはないが、陽嗣の反応を見る限り大凡の検討は付いてるだろうな。それとキョウは聖学の3年だ。本名は水蓮桔梗。水蓮と言えば奴の子飼いだったはず」

『……成程。そう言うことであれば十分に気を付けましょう。陽嗣にはそれとなく探りを入れても?』

「構わない。寧ろお前にはそっちの方を任せたい」

『分かりました』



キョウの本名が分かったのは大きい。
奴の素性を探れば“鬼”に関する情報が得られるはずだ。
白夜叉ほどではないにしろ“鬼”に関する情報も少ないからな。



『相手が相手なだけに貴方が陽嗣を心配しているのは分かりましたが、未空や立夏くんはどうしますか?』



九澄の口から立夏の名前が上がった時、思わず言葉に詰まった。



血のような深紅の瞳。

目が合った瞬間に見せた真っ青な顔。



……驚いてたな。

いや、俺も十分驚いたが、アイツはこの世の終わりみたいな顔をして涙を堪えるように口元を固く結んでいだ。





『今のままだと、アイツ………消えますよ』



『お前がその喉に痞える疑問を吐き出した瞬間、リツはお前の前から姿を消す』





(終わらせるかよ…)



誰にも。

例え相手が立夏でも、何も奪わせない。



「アイツ等には、何れ俺から話す」



絶対に。


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