歪んだ月が愛しくて2
「てか、何でこんな暑いのに態々こんなもん着せたんだよ?熱中症で殺す気か?」
「しかも、ちゃっかり自分の分まで用意してますよね?」
「流石頼稀、鋭いね」
頼稀の指摘通り、アゲハは俺に黒い学ランを着せたばかりか、何故か自分用の白い長ランまで用意していた。
何故?
「僕からのプレゼントは気に入ってくれたかな?」
「気に入るも何も…」
……ん?
プレゼント?
「おや、お気に召さないかい?君の繊細な肌に合わせて肌触りの良い生地を選んだつもりだったが」
「いやいや、ちょっと待て。さっきプレゼントとか言ってたけど、まさか…、これ作ったの?」
「勿論さ。まさか君に他人の手垢が付いたものを着せるわけにはいかないだろう」
「手垢って…」
「だから自分用も新調したと?」
「そうとも!今回は細かいところにも拘ってデザインしたのさ!この僕がね!」
「お前がかよ!」
「そこまでして立夏くんとお揃いにしたかったんですか」
「お、おおお俺もした…っ「お前は黙ってろ」
汐の頭にアイアンクローをかます頼稀を無視して、未空は俺の格好をまじまじと見ながら「デザインって言っても黒一色じゃん」と疑問を口にした。
「見たまえ!この裏地の柄を!僕等の愛の結晶がそこに施されているではないか!」
「………うわっ、最悪」
「どれどれ〜」
「は?何これ?」
「黒の生地に白い蝶って…」
「はわわわ…っ」
「はぁ…、バカなんですか?普通に考えてやり過ぎですよ。てか、喧嘩売ってるようにしか見えないんですけど」
「その通りさ!」
「喧嘩って誰に?」
「あの人達しかいないでしょう?」
「うん、流石にこれは俺でも分かるよ。やってくれたねアゲハ」
「そもそも何で喧嘩する必要があるの?」
アゲハはクラス中に見せびらかすように俺の学ランと自分の学ランを捲って裏地に施されたあるものを見せ付けた。
そこには黒の裏地によく映える白い蝶が飛び交っていた。
ふっざけんなよこの野郎。よくもこんな目立つもん入れやがったな。何がプレゼントだ。どう見ても覇王への嫌がらせじゃないか。
折角、会長の誤解を解いたばかりだって言うのに…。
「アゲハ、お前な…」
「ふふっ、一種のマーキングだよ」
「は?」
マーキング?
「アゲハさ、何ちゃっかりリカのこと口説いてんの?言っとくけど、こんなんで牽制しても意味ないからね。俺とリカはラブラブなんだから漬け込む隙は一切ないよ」
未空は俺の腕に抱き付きながらブスッとした顔をしてアゲハを見据えた。
そんな未空の牽制に眉一つ動かすことなく、アゲハはいつもの笑みを浮かべたまま余裕綽々と対応する。
「意味がないことはないんじゃないかな」
「は?」
「例え君に効果がなくてもこれを見て面白くないと感じる者は確実にいるからね。それも君の一番近くに」
「あー…、まあそうだけど…。もしかしてそっち狙い?」
「さあ、それは(反応を)見てのお楽しみだね」
「(性格悪いな…。みーこのこと言えないじゃん)」
はぁ…、と溜息を吐く未空が俺の肩に顔を乗せる。
そんな未空の頭を無意識に撫でる俺に頼稀から鋭い視線が飛んで来ていたことに、俺だけが気付いていなかった。