歪んだ月が愛しくて2



「……帰れ」

「勿論、用が済んだら帰るさ」

「用?」



スッと、アゲハの手が目前に伸びる。



「僕と一緒にC組を盛り上げてくれないかい?」



成程、お祭り好きとは強ち嘘ではないらしい。
自称応援団長の肩書きは胡散臭いが、アゲハがやろうとしてることを否定するつもりはない。
応援団結構。盛り上げるの結構。きっとアゲハみたいな人は祭り事には必要不可欠なんだと思う。



でも、何で俺?

別に俺じゃなくても良くない?



「ダメかい?駒鳥が応援してくれればクラスの士気が上がると思ったんだが」

「………」



応援団そのものに不満はない。
学ランが長袖なのと裏地の柄はネックだが、俺なんかのために態々一から作ってくれて嬉しくないはずがない。
寧ろこんな高そうなものを頂いてしまって申し訳ないとさえ思う。だから正直なところやってやらなくもないのだが、このままアゲハの思い通りになると思うと何だか面白くなかった。
暫く無視して困らせてやろうと思った時、俺とアゲハの間に未空と汐が割って入って来た。



「アゲハ!それ以上リカに近付くの禁止!ドントタッチミー!いくらお揃い着てるからって調子に乗んなよな!」

「そう…っ、じゃなくて、いくら貴方でも立夏くんを誘惑するのはダメです!絶対ダメ!」

「あははっ、立派な番犬ぶりだね。その調子で駒鳥のことを宜しく頼むよ」



アゲハは未空と汐の頭に手を置いて言い包める。
上手いこと2人を手懐けるとは、流石東日本一の大所帯のトップ様だ。



「……まさか、本当に立夏にやらせるつもりですか?」

「そのつもりだが」

「分かってるんですか?立夏は今大変な…」

「君の意見は最もだ。しかし今のあの子に必要なのは隠れ家なのかな?」

「っ、な、にを…」

「僕は、それを見極めなくてはならない。駒鳥に必要なものが何なのか…。そのためには君等の協力が必要不可欠なんだよ」

「………」

「協力してくれるね?」

「勿論ッス」

「仰せのままに」

「……アイツのためなら、やりますよ」

「ふふっ、君等ならそう言ってくれると信じていたよ」



彼等が何を話しているのは分からない。
ただ俺には知られたくない何かだと言うことは分かる。



(知られたくないなら、ここで話さなければいいのに…)



除け者にされた感は否めない。
でも話してくれるまで待つと決めたのは自分だ。



……我慢、だな。


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