歪んだ月が愛しくて2
まるで花道のように道を開けてくれる人達に「ありがとう」と軽く会釈しながら目的地までの道のりを歩く。
バタバタと後ろの方で人が倒れる音がしたがもう知らん。何回目だよ。ボキャ貧か。
ふと足が止まる。
先程のこともあってか、少し重くなった気分を晴らすために深呼吸を繰り返す。
………よし。
大丈夫。
俺は、大丈夫だ。
気持ちを切り替えて、一歩足を踏み出す。
人混みから開けた先で、真っ先に見えたのは…。
「やあ、待っていたよ」
純白の長ランを身に纏う彼が俺に向かって手を伸ばす。
「アゲハ…」
目がチカチカする。
ごしごしと目を擦ってもキラキラが消えない。
室内と外では純白が放つ輝きが全然違って見えるせいだろうが、本来の九條院暁羽が纏うオーラのせいでもあるんだと思う。
今だって無駄に王子様オーラを出している気がするのは俺だけだろうか。ああ、クソ目が霞む。
俺は差し出された手を躊躇うことなく取る。
そんな俺の行動にアゲハは少し驚いたような顔をしていたが、俺の表情を見ると困ったように微笑んだ。
「とてもよく似合っているよ」
「それ、さっきも聞いた」
「でも君に映えるのは純黒の闇じゃない。何者にも囚われず、何者にも染まらない。黒でも白でもない、月の色だ」
「月?」
「闇に映える唯一の光。それが君なんだよ」
「……俺は、光じゃない」
光なはずがない。
光であっていいはずがないんだ。
多くの人を傷付けて、この手を赤に染めた俺なんかが。
許されない。
許されちゃいけない。
スッと、顔の前に手が伸びる。
その手は俺の唇の端に触れて、耳元に顔を近付ける。
「そんなに噛んでは傷になってしまうよ」
「え、あ…」
どうやら自分でも気付かないうちに唇を噛んでいたらしい。
気付かなかった。
「神代くんのことは頼稀から聞いたよ」
「、」
思わず息が詰まった。
まさかアゲハの口から会長の話が出るとは思わなかったから油断していた。
でもアゲハの口から会長の名前が出た瞬間、改めて現実から目を背けていた自分に気付かされた。
「……溜め込んではいけないよ」
「え、」
「君は、そう言う子だからね」
「………」
……心配、されているのか?
何ともないはずなのに、意外に堪えてるのかな。
弱いな、俺は。