歪んだ月が愛しくて2
「神代くんのことはどうするつもりなんだい?」
「どうもこうも…」
あの日以来、会長には会っていない。
特段距離を置いているわけではないが、体育祭の準備が忙しくて中々生徒会室に顔を出すことが出来なかった。
でも顔を合わせたところで俺から話すことは何もない。何も言えない。
だから、もし会長にあの日のことを問い詰め寄られても、俺は「人違いだ」と言って誤魔化すことしか出来ないだろう。
文月さんに言われたからじゃない。
きっと、俺自身が…、
「何を迷っているんだい?」
「………」
迷っているからだ。
「まさか、君の正体に気付いた彼をこのまま野放しにするつもりかい?」
「野放しも何も…、他にどうしろって言うんだよ」
「僕なら安全かつ確実な方法を取るよ」
「安全?」
「彼の口さえ封じてしまえばそこから秘密が漏れるこ…「やめろ」
咄嗟に、アゲハの言葉を遮った。
無意識の内に声がワントーン下がる。
「やめろ…」
アゲハが言いたいことは分かる。
安全かつ確実な方法の意味も分かった。
でもその必要はない。無関係な会長を傷付けるつもりはないし、俺のせいでアゲハが手を汚すなんて堪えられない。
そんなことされたら、自分で自分が許せない。
「……確かに、神代である彼に危害を加えるのは得策ではないね。君の言う通り彼の口を塞ぐのは諦めよう。でも僕の力が必要になった時はいつでも声を掛けてくれたまえ。君のためなら僕は悪魔にでも何にでもなれるのだからね。勿論、相手があの神代であっても」
「いらねえよ、そんなもん」
悪魔を欲したことはない。
神様って奴を恨んだことはあっても…。
「そのくらい僕は本気と言うことさ」
「頭の隅っこに入れとくよ」
「そうしてくれたまえ。ああ、それと君に紹介したい者がいるのを忘れていたよ」
「紹介?」
そう言って話を変えたアゲハの背後からタイミング良く現れたのは、見たことのない2人の男子生徒だった。
彼等は俺と同じ黒い学ランを身に纏い、左腕には「C」の腕章を付けていた。
「初めまして、2年C組学級委員長の三橋初です」
「同じクラスの沖田総一郎。宜しくな」
「あ、藤岡です。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくね」と言ってお上品に微笑む三橋先輩は、性格云々は別としてザ・ボンボンって感じの人だった。
一瞬、どこぞの性格ブスを連想してしまったことは許して欲しい。
反対に沖田先輩は一見金持ちっぽく見えないヤンチャ系。
そのくせ一切髪を染めてないところが少し幼さを醸し出していた。