歪んだ月が愛しくて2
第2競技の100メートル走が始まった。
俺達のクラスから出場するのは希と山田と野津と木村。
野津と木村のことはあまり話したことがないのでよく知らないが、山田は陸上部だし、希も足速いらしいからこの競技も期待出来るだろう。
チラッと、隣の頼稀を盗み見る。
先程のパン食い競走の時とは違い、入場ゲートにいる選手達をジッと真剣な表情で観察していた。
「ん?何だ?」
「……いや」
その真面目な感じ、未空と汐の時も出してあげて欲しかったよ。
さっきまでは俺以上に面倒臭い感を前面に出してたくせに、希のことになるとあからさまに人が変わるんだよな。
「何かあったのか?」
「んー…あったような、なかったような…」
「どっちだよ」
「いやさ、最近気付いたんだけど、頼稀って希のこと大好きだよね」
「………は、」
「皆がよく言うじゃん、頼稀は希のことになると一生懸命だって。最初はその意味がイマイチ分かんなかったけど、あの新歓以来、頼稀と希のことが気になっちゃって何となく見て、た、ら…」
一瞬、言葉を失った。
否定も肯定もしない頼稀が気になって思わず見上げると、そこにはまるで林檎のように顔を真っ赤にさせた頼稀がいた。
「……え、」
俺が目が合った瞬間。
「っ、」
フイッと、頼稀は口元を押さえて顔を逸らした。
「よ、りき…」
その反応で分かった。
いや、分かってしまった。
これはマジな奴だ。
「ご、めん…」
「……いや」
頼稀の熱が伝播するかのように、顔に熱が集中する。
こんな頼稀を見たのは初めてだった。
前々から希のことになると敏感で、大切にしてますオーラ全開だとは思っていたが、あくまで幼馴染みとして大切にしていると思っていた。
だから今の会話もライクの意味で軽く聞いたつもりだったのだが、そこにはいつものポーカーフェイスはどこにもなかった。
とんだ誤算だ。
いや、これも勝手に思い込んでいた俺のせいなんだけど。
頼稀の反応を見ればその好きがライクじゃないことは一目瞭然だった。
じゃあ何かって?
それは俺の口からは言えませんよ。
「………」
「………」
俺達の間に流れるのは、何とも言えない微妙な空気。
こんなことになるなら初めから言わなきゃ良かったと思うのは後の祭りで、一度口にしてしまったら最後もう後戻りは出来なかった。
……気まずい。気まず過ぎる。
ああ、もう本当マジでごめんなさい。すいませんでした。
「口は災いの元」って分かってたのに余計なこと言いました。
お願いだから誰かこの空気をどうにかして下さい。お願いします。