歪んだ月が愛しくて2



トン、と軽やかにゴールテープを切ったのは…。



『一着は1年C組の佐々山希くんです!去年に引き続き1位とはお見事です!』



「おおっ!」

「………」

「流石希だね。軽々とした身のこなし、まるで風の化身のようじゃないか」

「九條院様は詩人でいらっしゃるんですね!素敵です!」

「相変わらず速ぇな、あの子」



上から俺、頼稀、アゲハ、三橋先輩、沖田先輩がそれぞれ反応する。
頼稀に関しては無言で見惚れてたっぽいけど。



すると走り終えた希が、それまでの疲れを一切感じさせない嬉々とした表情でこちらにやって来た。



「よっりきー!」



そう言って希は一目散に頼稀目掛けて飛び付いた。



「ムフフ、ちゃんと見てた?俺1位取ったんだぜ!約束通り向こう1ヶ月の洗い物担当は頼稀だからな!」

「分かったから退け」

「えー、他には?労いの言葉とかないわけ?」

「……頑張ったな」

「ふむ、良かろう」

「何様だよ?」

「希様ですよーだ」

「知らねぇよ。誰だそれ?」



途端、頼稀の表情が緩む。
この光景に少し前の俺なら「仲良いな」の一言で済ませていたが、頼稀の気持ちに気付いてしまった今、ただイチャ付いてるようにしか見えないのは仕方ないよね。



「……アゲハ」

「何だい?」



頼稀と希に聞こえないように小さな声でアゲハに話し掛ける。



「さっきの話聞いてたよな。あの2人って付き合ってんの?」

「さあ。本人に直接確認したことはないから定かではないが、互いに信頼し合っているのは間違いないだろうね」

「信頼?」

「そうでなければ、あんな表情は出来ないよ」



不意にアゲハの視線が横に逸れる。
その視線の先には人目も憚らず2人の世界に入っている頼稀と希がいた。



「……確かに」



恋人同士にも見えなくない穏やかで甘ったるい空気だが、互いに信頼し合っているからこそ出来る表情でもある。
希が頼稀のことをどう思っているのかは分からない。
でも頼稀がどれほど希のことを好きで、どれほど希のことを大切に想っているかは凄く伝わって来る。
他人を間に挟んでいても空気だけで互いに繋がる強い想い。
そう言うのを言葉に表さないところが、2人の絆の強さを物語っていた。



俺は今までにそんな経験をしたことがあっただろうか。

………いや、ないな。

甘酸っぱい気持ちを抱いたことも、そもそもあれが本当に恋と呼べる代物だったのかも分からない。

そんなこと考える余裕すらなかったからな、あの頃は…。


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