歪んだ月が愛しくて2
体育祭と覇王vs◯◯
立夏Side
「………何、これ?」
午前の部を終えて頼稀と一緒に応援席に戻ると、そこには未空しか残っていなかった。
不思議に思っていたところに頼稀が「希達は?」と尋ねるや、未空は待ってましたと言わんばかりに俺と頼稀の手を引いて走り出した。
連れて行かれたのはグラウンド近くに設けられた特設会場だった。
長方形のテーブルの上には三段式のケーキスタンドがいくつも並べられケーキやサンドイッチなどの軽食が乗っていて、その他に大皿に乗ったピザやパスタなどの豪華な食事が用意されていた。
「何って、もうお昼じゃん。こっちに用意させたから早く食べよう。皆も待ってるよ」
「用意させたって…」
用意されていたテーブルセットには既に希達C組のメンバーが席に着いていた。当然、未空もその中に入って行く。相当腹が空いてたのかもしれない。
でも俺は不思議だった。結構な人数が座れるくらい大きいテーブルセットだが、何故かこの一組しか用意されていない。
まさかと思うが、昼食を摂るためだけに態々これを準備させたのではないだろうか。
もしそうだとしたら他の生徒達が食堂に向かったことにも説明が付く。つまり本来はいつも通り食堂で昼食を摂るべきところをどう言うわけかこの場を設けたってことか。
でも何で?いつも通り食堂に行けばいいじゃん?炎天下ではないとは言え室内の方が絶対涼しいのに。
「おーい、りっちゃーん」
「立夏くん、こちらですよ」
「遅ぇぞ」
しかも、何故そこにいる。
体育祭には出ないんじゃなかったのか。
「何で覇王まで…」
「そりゃ言い出しっぺが九ちゃんだからね」
「え、九澄先輩が?」
「うん。俺もさっき聞いたばっかなんだ」
「ふーん…」
未空以外の覇王3人はジャージや体操服に着替えることなく制服のまま席に着いていた。
九澄先輩は運営側だから競技に出れないくらい忙しかったんだろうけど、後の2人は完璧サボりじゃん。自分達だけ涼しいところで暢気に寛いでたってわけね。良いご身分だことで。
釈然としない気持ちを抱えたまま席に着こうとした時、俺はあることに気付いてピタッと足を止めた。
「2人共お疲れ様。前開けてるとは言えずっと学ラン着てて暑かったでしょう」
「はい、タオル」
「り、立夏くんっ、俺タオル2枚持ってるから、これ…っ」
「それ、さっき汐が使ってた奴じゃない?」
「え゛っ!?」
「ほら、水飲めよ」
「サンキュー」
「あ、りがとう…」
「ほらほら、早く席に着いて食べようよ」
そうは言われても足が動かない。
頼稀は未空の言葉に促されて当然のように希の隣に座ったが、そうなると残る席は一つしかなかった。
「立夏くん?どうしましたか?」
「早く食わねぇと猿に全部食われちまうぜ」
「人を大食いみたいに言うなよ!」
「まんまじゃねぇか」
ここが屋外だと言うことも忘れて、覇王4人はいつもの調子で騒ぎ始める。
よし、逃げるなら今だ。
いや、今しかない。