歪んだ月が愛しくて2



「リカ?本当にどうしたの?さっきから挙動不審だけど」

「あ、えっと…」

「もしかしてトイレ我慢してたの?」

「そっ、そう!トイレ!ずっと応援してたから行けなかっ…」

「立夏」



ビクッと、その声に肩が震える。これぞ正に条件反射。
壊れた人形のように、ギギギっと首を動かして会長を見ると。



「座れ」

「は、はい…」



有無を言わさぬオーラを放つ会長が地を這うような低い声で命令する。
当然そんな会長に逆らえるはずもなく、俺は言われるがまま会長と未空の間に大人しく座った。



てか、何か怒ってない?

心当たりはバリバリあるけどさ。



「いっただきまーす!」



そう言って未空は大皿に盛られたパスタに躊躇なくフォークをぶっ刺した。



「テメッ、この猿!何テメーだけで食おうとしてんだよ!どう考えても1人分じゃねぇだろうが!しかも横で取り分けてんのが見えねぇのかよ!」

「だって腹減ってんだもん!陽嗣と違ってこっちはもう一勝負終わらせて来たんだぞ!少しは労われよ!てか、そんなに食べたかったら別で頼めばいいじゃん!」

「正当化すんな!りっちゃんが来るまでバカみてぇにサンドイッチ食ってたじゃねぇか!」

「きっこえなーい」



側で控えていたウェイターが料理を取り分けた後、それぞれが食事を始める。
でも箸が進まない。先程までは確かにお腹が空いていたはずなのに、隣から感じる不機嫌オーラに食欲が後退していく。
それに会長と会うのはあの日以来なんだ。気まずくないはずがない。
人違いで突き通すとは決めたものの、いざこんな風に顔を突き合わせて皆の前で追及されたら誤魔化せる自信がなかった。



チラッと、会長を盗み見る。



「何だ?」

「えっ、いや、何でも、ない…」

「そうか」



それに屋上にいたのは、本当に会長だったんだろうか。



会長と、見知らぬ女性。
人目を盗んで会っていたってことはただの知り合いではないのだろう。
しかもあれは………抱き合っていた、と思う。多分。
つまりそれは会長とあの人が特別な関係であることを意味していた。



恋人?

いや、そんな話は聞いたことがない。

でも会長が自分語りしてるイメージないから俺が知らないだけかも。



本人に直接確かめるべき?

それとも見なかったことにして忘れてあげるべき?



んー……分からん。



「そう言えば立夏くんとこうして会うのは久しぶりですね」

「そうそう。りっちゃんが生徒会室に顔出してくれなかったから王様の機嫌が最高に悪くて超大変だったんだよ」

「おい、適当なこと言ってんじゃねぇぞ」

「適当じゃないじゃん。何イライラしてんのか知らないけどさ、気に入らないことがあると俺やヨージに八つ当たりするし、頻繁にスマホチェックしてるし、なーんか落ち着きがないし、灰皿なんて吸い殻でこーんな山作っちゃってさ」

「お前等の仕事がとれぇからイライラしてたんだよ」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」

「お返ししまーす」

「しまーす」

「死にてぇのか?」



でも、モヤモヤする。



「立夏くん、その学ランよく似合ってますね」

「カッケーじゃん。最初見た時、誰かと思って三度見くらいしちゃったよ」

「リカは何着ても綺麗で格好良いよね!」

「あ、りがと、ございます。これ、アゲハが用意してくれたもので…」

「九條院が?」

「あー…うん。何かよく分かんないけど、他人の手垢がどうとか言って態々作ってくれたみたい」

「へー、アイツがね…」

「アゲハが一から作ったのはそれだけが理由じゃないよ。見てよ、この裏地」

「げっ、蝶の刺繍って…。何これ?俺達喧嘩売られてんの?」

「だろう!俺もそう思って文句言ったらアイツなんて言ったと思う!?」

「何と言われたんですか?」

「“例え君に効果がなくてもこれを見て面白くないと感じる者は確実にいるからね。それも君の一番近くに”…って言われたんだよ!これ絶対みーこのことじゃん!うちの王様怒らせてアイツ何がしたいんだよぉおおお!」

「対覇王って言うより端っから王様ピンポインじゃん。お前いつ九條院の恨み買ったんだよ?」

「知るか。逆恨みだろう」

「おやおや、これはどう言うことですかね風魔くん?」

「俺に振るのやめてもらえません?これに関して俺は一切関わってないので」

「上を躾けるのも下の役目では?」

「あの暴走機関車を制御出来る人間なんて唯一の妹と立夏くらいなもんですよ」

「へー、アゲハって妹いたんだ。初耳」

「んなこと今はどうでもいいだろうが」

「………」

「な、に?」

「……いや」



あの光景を思い出すと。



(ああ、気持ち悪い…)


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