歪んだ月が愛しくて2
俺を“リツ”と呼ぶ人間は限られている。
育ての両親、兄ちゃん、文月さん、そして―――。
「あれ、カナちんじゃん!この間ぶりだね!」
「……それで呼ぶな」
弟のカナだけ。
至近距離にも関わらず満面の笑みで手を振る未空を、カナは鬱陶そうにシッシッと手で遇らって俺を見た。
「リツ、何してんの?」
「昼飯」
「見りゃ分かるわ。何でこんなところで飯食ってんのか聞いてんだよ」
「それは俺に聞かれても…。何で?」
「九ちゃんの気紛れ」
「いやですね、僕がこんな開放的なところで好き好んで食事を摂るわけないじゃないですか。鶴の一声があったからですよ」
「「鶴?」」
「1人しかいないじゃねぇの」
「あー…」
どうやら今の会話で「鶴」の正体を理解したのは頼稀だけのようだ。
俺と未空なんて互いに顔を見合わせて未だに答えが出せないでいた。
「そう言うカナちんこそ何でここにいるの?もしかして美味しそうな匂いに釣られて来ちゃったとか?」
「人を食いしん坊みたいに言うな。リツの姿が見えたからに決まってんだろう」
「ムフフ、相変わらずブラコンなんだねカナちんは」
「あ?」
「カナ、そう簡単に挑発に乗らないの。それじゃ未空の思う壺だよ」
「……分かってるよ」
フイッと、カナが拗ねたように顔を背ける。
んー…未空じゃないが、カナを揶揄いたくなる気持ちは分かるな。可哀想だけど。
「立夏くん、彼がこの間話してくれたカナくんですか?」
「え、あー…そうです。未空以外の皆さんは会ったことなかったですよね」
「良かったら紹介してもらっても?」
「勿論です。カナ、この人達がこの前話した生徒会の先輩方で…」
「初めまして、副会長の皇九澄です。宜しくお願いします。立夏くんにはいつも(珍獣共が)お世話になっています」
「書記の御幸陽嗣。宜しくちゃん」
「2回目だけど、俺が会計の仙堂未空だよ!未空って呼んでね!」
「………生徒会長の神代だ」
「………は?」
「何だよ?」
「……いや、別に」
会長はカナを視界に入れることなく水の入ったコップに口を付けながら名乗った。
お世辞にも態度が良いとは言えないが、俺の時は一切名乗んなかったくせに何でカナには自己紹介してんだよ。贔屓かこの野郎。
するとそんな会長の態度にアテられたカナが意味深なことを口走った。
「……藤岡叶威。うちのが世話になってます」
ピクッと、会長の顳顬が動く。
会長はゆっくりと首を動かしてカナに鋭い視線を向ける。
それに気付いたカナもスッと目を細めて、逆に会長を挑発するような視線を送っていた。
「カ、カナ…?あれ、何か怒ってる…?」
「怒ってない」
「か、会長も、何か怖いんだけど…」
「気のせいだ」
え、何で?
初対面だよね?
何か会わせた途端、水と油みたいになってんだけど。
何で?