歪んだ月が愛しくて2



「で、西川がどうしたんだよ?」

「実はこの前さ、西川くんが同じ野球部の連中に因縁付けられるところを見ちゃったんだ。その時はカナが仲裁に入ってくれたから俺の出番はなかったけど…」

「けど?」

「カナはどうするつもり?動くの?」

「……それを聞くってことはお前も動くつもりか?西川とは仲が良いわけじゃないんだろう?」

「そうだね。でも見ちゃったもんをなかったことには出来ないし、あれってどう見ても理不尽な言いがかりじゃん。流石にあれは可哀想かなって。それに…」



『僕のこと助けてくれて、本当にありがとうございました!』



「この手が届く範囲は守りたいから…」

「………」



世界中の全員を助けたい…、なんて豪語するほどバカじゃない。
そもそも全員を救えるなんて思ってないし誰しも無条件に救いたいとも思っていない。
ただ見てしまったものをなかったことに出来ないように西川くんと言葉を交わして彼の眩しさを知ってしまったからには見て見ぬ振りは出来ないと思った。



それに…、



『自分を否定すんな。お前は誰よりも頑張ってるじゃねぇか』



カナが守りたいと思っている人なら尚更だ。



「……正直、俺にも分からねぇんだ」



カナは小さな声で呟いた。
躊躇うような口調から察するに初めから第三者を巻き込むつもりはなかったんだろう。
でも話してくれると言うことはカナ自身も迷っていると言うことだ。



「先公にチクればいいのか、力で黙らせればいいのか、そもそも無関係の俺が首突っ込んでいい話なのかも…」

「………」

「西川にどうしたいか聞いても真っ青な顔して首振るだけで仕舞には泣き出して話になんねぇし…。ただこの前みたいに目の前で一方的に責められてるの見たら身体が勝手に動いて…、無関係の人間が仲裁に入ったら余計ややこしくなるって分かってたのに助けちまった」

「後悔してるの?」

「……ああ。でも助けなかったらもっと後悔してた」



母さん似の猫目が真っ直ぐに俺を見つめる。

その瞳を見ればカナの言葉の真偽は一目瞭然だった。



それでいい。

自分の信念に忠実であれば。



「リツ、俺はどうしたらいい?どうすればお前のように大切なものを守れる?」

「カナ…」

「教えてくれ。俺はどうすれば西川を守ってやれるんだ?」

「………」



守ること前提で話をするカナに苦笑する。



もうカナの中で答えは出ていた。
それなのに本人だけが気付いていない。



自然と頬が緩む。



「俺、カナのお兄ちゃんになれて良かった」



嬉しい。



(ああ、本当に自慢の弟だよ…)


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