歪んだ月が愛しくて2
「……会長は、聞かないんだね」
「何が?」
「俺が独りになりたかった理由」
「聞いて欲しいのか?」
「………」
会長は自分のカップに口を付けてコーヒーを飲む。
その瞳に映るのは俺じゃないのに、まるで心の奥底まで見透かされているような気分になる。
『もうしない。お前が自分から話すまで聞かねぇよ』
そう言われた時、バカだと罵った。
でも本物のバカは、俺だ。
「……今日、転入生が来たんです」
「転入生?」
そう言うと会長は少し驚いた顔を見せたが、俺はそれに気付かないふりをして話を続けた。
「しかもその転入生が弟らしくて吃驚」
「らしいって…、会ってないのか?」
「会ってないよ。うちのクラスに来たわけじゃないし、転入のことも今日初めて聞かされたから。……それに、何か気まずくて」
「………」
あの日からまともに会ってないんだ。
今更どうやって接していいのか分からない。
「だから独りになりたくてここに来たんです。ここなら誰にも邪魔されずに練習出来ると思ったから」
「練習?」
「そう、上手く笑う練習」
「………」
「でも会長のお陰で笑えたみたい」
もう一度「ありがとう」と口に出すと、会長はスッと目を細めて手に持っていたカップをテーブルに置いてから片腕をソファーの背に預けて俺と向き合った。
「偽物なんかいらねぇ。俺が欲しいのは本物だ」
「本物?」
「笑いたくねぇ時は笑わなくていい。無理して笑われる方が見てて不快だ」
「ふ、不快って…」
もう少し言い方ってもんがあるじゃん。