歪んだ月が愛しくて2
「西川のこともそうだけど、お前も気を付けろよ」
「何が?」
「覇王」
パタパタと、顔を仰ぐ横でカナが言った。
「GDじゃなくて?」
「そっちもだけど覇王にも。特にあの金髪にはな」
覇王の中で金髪なんて1人しかいない。
「……因みに、何で?」
「顔」
「いや、部位は聞いてないし」
「どこが気に入らないかってことだろう。だから顔が気に入らない」
確かにカナと会長の間に流れる雰囲気はお世辞にも良いものとは言えなかったが、だからって2人は初対面の上にお互い一言しか言葉を交わしてないのに、それで顔が気に入らないってことはもう全否定ってことじゃないか。
人間の第一印象は容姿8割、挨拶2割で決まると聞いたことがあるが、どうやらそれは本当のことらしい。
「可哀想…」
いや、自業自得か。
何たって俺には自己紹介しなかったし。
性悪で、毒舌で、最悪だって思われても仕方ない。
『独りになんかさせねぇよ』
(……最悪は、嘘)
性悪で、毒舌で、100人中98人に極悪非道の顔面凶器と言われそうな会長だが、それでも本当は優しい人だってことを知ってる。ただ不器用で口下手なだけと言うことも。
初対面の自己紹介はなかったが、ムカついたのは最初だけで今となっては気にもしていない。正直今の今まで忘れていたくらいだ。
そんなことよりも、今はあの日見られたことと、屋上でのことが気になって仕方なかった。
「アイツのこと庇うのかよ?」
悶々とする気持ちを抱える中、カナが不機嫌そうに言った。
「庇うって何?会長に同情しただけだよ」
「やっぱり庇ってるじゃねぇか」
「庇ってないって。大体、会長の何に気を付ければいいんだよ?」
抽象的過ぎてカナの言いたいことが分からない。
そもそも今日が初対面のカナと違って俺は生徒会のメンバーだし、カナに比べたら会長のことを知ってる………と思う、多分。
そんなカナに俺は何を心配されているんだろうか。
「全部だよ全部。お前は自分のことになると鈍感なんだからちゃんと周りを警戒しろ。分かったな?」
「う、うん…」
善処するよ。多分。
『皆様、まもなく午後の部が始まります。ご自分の席にお戻り下さい。障害物競争に出場される方はグラウンドの中央にお集まり下さい』
「もう始まるのか…」
「ヤバッ、応援しなきゃ。早く戻んねぇと」
「ああ」
どこからか聞こえて来たアナウンスの声に従って、俺達はグラウンドに向かって歩き出した。
その道中、カナは頬を赤らめながらどこか複雑そうな顔でチラチラと俺のこと見て来た。
「その団服…、似合ってんな」
「えへへ、カナにそう言われると何か嬉しいかも。ありがとう」
「ぐはっ!!」
「は?何どうしたの?」
「な、んでもねぇよ…(そんな可愛い顔して無闇に笑うなぁああ!!クッソ行かせたくねぇ!!)」
「え、本当に大丈夫?保健室行く?」
「……お前は?」
「俺?俺は応援があるから皆のところに戻るけど」
「じゃあ俺も行かない」
「はぁ?何だそれ?体調悪いのに無理したって余計悪化するだけだよ」
「だから別にどこも悪くないって言ってんだよ。ほら、急いでんだろう」
「あ、ちょっと…っ」
カナに手を繋がれて駆け足でグラウンドに向かう中、俺はカナの後ろ姿にそっと呟いた。
「―――」
きっとカナには聞こえない。
聞こえないように声に出したのだから当然だ。
『リツ、俺はどうしたらいい?どうすればお前のように大切なものを守れる?』
大切なものって、何?
守るって、何?
そんな悲痛な叫びに、内心では嘲笑っていた。
だってお前のようにって、何?
どう言うこと?
大切なものを守れなかった俺にそれ聞いちゃう?
「は、はは…っ」
笑える。
これが嗤わずにいられるか。
大切なものを守ることが出来なかった自分も、義弟の前で見栄を張った自分も、そんな俺のようになりたいと言ったカナも。
「……バカみたい」
ねぇ、聞せられないだろう。