歪んだ月が愛しくて2
頼稀Side
立夏と藤岡弟が中庭を去った後、俺は汐と遊馬に希達を任せて一足先にグラウンドに戻らせた。
汐と遊馬は目配せ一つですぐに行動を起こし、葵と御手洗は特段気に留める様子もなく大人しく2人の後に付いて言ったのだが、希だけは最後まで不安げな視線を送り続けていた。
「心配するな」と何度言っても分からない希を安心させるために俺は手を振って見送った。
「あーあ、リカが攫われちゃった…」
「やるじゃんあの弟くん」
「うちの王様を出し抜くとは中々の度胸がありますね」
「しかもみーこに喧嘩売るなんて怖いもの知らずだよね」
「俺には出来ねぇな、恐ろしくて」
「同じく」
「……煩ぇよ。無駄口叩いてる暇があったら誰かアイツを追えばいいだろうが」
「野暮だね。せっかく俺達を撒いてまで兄弟水入らずの時間を作ったってのによ」
「それに今優先すべきはあちらではありませんか?」
「そうそう。だからみーこも我慢してるんでしょう」
「チッ」
中庭に残ったのは、覇王4人とアゲハさんと俺の6人だけ。
席に着いたままの覇王は一向に動く気配がない。寧ろアゲハさんが席に着くのを待っているようにさえ思える。
でもアゲハさんは動かない。覇王の意図には気付いているはずなのに、腰に手を当てて仁王立ちしている。長居するつもりはないと言うことか。
だったら早く話を切り出してくれ。俺だって出来ることならこの場から離れたいんだ。
「さて、本題に入ろうか」
そんな俺の願いが通じたのか、アゲハさんは立ったまま話し始めた。
しかも、その第一声が…、
「僕が“B2”の総長だよ」
(ぶっ込み過ぎだろう)
従者の俺でさえ驚いたくらいだ。覇王4人もいきなり核心に触れられて、鳩が豆鉄砲食らったような顔をして驚いていた。
アゲハさんはこれが見たくてぶっ込んだんだろうな。その証拠に口元から笑みを漏らし満足げな表情を浮かべていた。
「うっそーん…」
「いきなり?てか、認めちゃうんだ…」
「……どう言うつもりですか?」
「………」
覇王4人はそれぞれの反応を見せるが、誰1人アゲハさんが“B2”の総長だと疑う声はなかった。
つまり彼等の中でもアゲハさんが“B2”の総長であることは想定内だったんだろう。
まあ、あれだけ確信持って俺に吐かせようとしてたんだ。遅かれ早かれ覇王がアゲハさんの正体に辿り着くことは免れなかっただろう。
「君等が知りたがっていたことだろう。コソコソ調べてないで僕に直接聞いてくれれば良かったのに」
彼等が警戒しているのは、何故このタイミングで打ち明けたのかと言うこと。
それと…、
「では伺いますが、貴方はあの“B2”の総長なんですね?」
「そうとも」
「立夏くんとの関係は?」
ほら来た。
「駒鳥?」
皇先輩の意図に気付いているくせに、アゲハさんは不思議そうな表情で首を傾げる。
役者ですね。
「九ちゃん、それは…っ」
「はっきりさせなければいけないことです。未空もこのまま有耶無耶にしたくはないでしょう?」
「そりゃ気になるけど…」
「陽嗣」
「なるなる、ちょー気になる」
「尊」
「……勝手にしろ」
「と言うことで九條院くん、教えて下さい。貴方は立夏くんの何なんですか?」
ハッ、その言い方。
まるで立夏の番犬代わりかよ。
生憎、立夏の番犬はバリバリ健在だけどな。
「駒鳥は…」
……でも、安心した。
『貴方は立夏くんの何なんですか?』
俺達“B2”を敵視するような、あの目。
立夏は自分達の仲間なんだと言わんばかりの刺々しい、あの台詞。
それは皇先輩の本心が垣間見えた瞬間だった。