歪んだ月が愛しくて2
「それは中々難しい質問だね」
「答えられないのか?」
「僕個人のことならいくらでも答えられるさ。身長、体重、スリーサイズから趣味嗜好まで何でも答えよう。でも今の君の質問には駒鳥の承諾無しでは答えられないよ」
「……アイツから、直接それを聞いたのか?」
「まさか。彼は自分のことを話したがらないからね、こちらで勝手に調べさせてもらったんだよ。勿論彼の承諾は得ているよ、事後承諾だけどね」
「………」
神代会長はアゲハさんの一挙一動を観察する。
大方、どうやって立夏のことを聞き出そうか考えているんだろう。
「……だから、正直驚いたよ。あの彼が、まさか君の手を取るとはね…。一体どんな手を使って彼の信頼を勝ち取ったのか是非とも聞かせてもらいたいな」
「またそれか。どこぞの忍にも同じことを聞かれたが」
「分かってないな。彼にとってそれがどれほど恐ろしいことなのか。あの頃の彼からは想像も出来ないよ…」
「あの頃?」
「アゲハさん」
また余計なことを。
勝手に過去を振り返るのは結構だが、時と場所を考えてくれ。
しかもこの面子でうっかり口を滑らせるなんてどんだけ大物だよ。心臓に毛が生えてんじゃないのか。
「おっと、もうこんな時間だね。そろそろ駒鳥達と合流しなくては午後の応援に遅れてしまう」
「急ぎましょう」
アンタが余計なことを言う前にね。
「おい、話はまだ…「そうそう、最後に一つだけ」
そう言ってアゲハさんは覇王4人に背を向けたまま話し続ける。
「彼に信頼されているのは君等だけじゃないよ」
覇王には今アゲハさんがどんな顔をしているのか想像の域でしかないだろう。
でも俺の位置からその顔がバッチリと見えていた。勝ち誇ったかのような傲慢な笑みが。
「……だから何だ?何が言いたい?」
「だからね、余計な詮索はしないでくれたまえ。それは君のためでもあるし、何より僕はもう二度と彼を失いたくないからね」
「っ、お前…」
「では、僕等は先に失礼するよ。駒鳥が僕の帰りを待ってるからね」
「おいっ」
アゲハさんも、俺も、自惚れているわけではない。
ただ以前よりも立夏が心を開いてくれているように感じていた。
でも立夏は“B2”に手を下したことを未だに引き摺っている。
過去に囚われているのは立夏だけだと言うのに、アイツは何度言ってもそれを受け入れようとしない。
それがある以上、本当の意味で立夏が“B2”に心を開いてくれることはないのかもしれない。
だからこそアゲハさんは覇王に嫉妬した。顔や口には出さないが、あの立夏が神代会長に自分から手を伸ばしたことが羨ましくて、悔しくて仕方ないのだろう。