歪んだ月が愛しくて2



「てか、制限時間なんてあったんだ」

「そりゃあるよ。制限時間がなかったらいつまで経っても終わらないもん」

「やっぱりそう言うお題もあるのか…」

「“女子高生”が入ってるくらいだからね」

「確かに」



つまり借り物で勝つためには、いかに簡単なお題を引き当てるかに掛かってると言うことか。要は運。



(俺、くじ運ないのにな…)



「じゃあ僕も行って来るね」

「気を付けて、な…?」

「立夏くんもね」



そう言って葵はスタート位置に向かった。
葵の後ろ姿を見送りながら俺も準備運動を始める。
準備運動と言ってもアキレス腱を伸ばしたり、足首を回したりとその程度だ。
これ以上動いて余計な汗を掻きたくないし、何より学ランを着ているせいで何もしていなくても蒸し暑くて鬱陶しかった。



『続いて第3走者をご紹介します。1年の部、S組……A組……B組……C組武藤葵くん、D組…』



葵の出番となった。
銃声が鳴り、選手達はクラウチングスタートの体制から一斉に走り出した。



「アオー!頑張れー!」

「うおっ、いつの間に!?」

「えへへ、戻って来ちゃった!」



走り終えたはずの未空がいつの間にか隣にいて驚いた。
何しに戻って来たのかと尋ねると、未空は「俺1位取ったんだよ!褒めて褒めて!」と言って俺に抱き付いて来た。
別に今じゃなくてもいいのにと思いながらも早く未空を引き剥がしたくて、俺は未空の背中に腕を回してポンポンと背中を叩いた。
お陰で未空は上機嫌のまま俺から身体を離してピタッと隣に並んだ。



……いや、近ぇよ。

もうちょっとスペース開けようよ。

こっちは体操服と違って無駄に布多いんだぞ。



「相変わらずアオは足遅いな〜」

「……確かに」



どうやら葵は走るのが苦手らしい。
本人も新歓の時にそんなようなこと言ってたから足が遅いのは分かっていたが、まさかここまでとは思わなかった。
でも借り物に足が早い遅いは関係ない。
何のお題を引き当てるかで勝敗が分かれる。
葵は何のお題を引いたんだろうか。



「む、無理ですぅ〜っ!!」



途端、葵の叫び声が聞こえて来た。



『おっと、C組の武藤選手がグラウンドの中央で何やら喚いております。一体どのようなお題を引いたんでしょうか』



「だって、僕、こ、ここ…っ」



こ?



「こ、……恋人なんていないもん!!」



ズルッと、思わず漫画みたいにズッコケてしまった。



「……ぷっ、あははは!アオウケる!詰んだじゃん!乙ぅ〜!」



葵のお題が分かった途端、未空は腹を抱えて笑い出した。
未空の声が聞こえたのか、グラウンドにいる葵は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。



可愛い…じゃなくて、可哀想に。

こりゃ葵は失格だな。


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