歪んだ月が愛しくて2
『武藤選手、現在恋人がいないようでしたら今この場で恋人を作ればお題クリアですよ』
「そ、そんなこと、出来るわけないじゃん!邦光くんの意地悪!」
そんな葵を見ていた外野が一斉に騒ぎ出した。
「葵くん!恋人が欲しいなら俺がなるよ!いや、俺を葵くんの恋人にして下さいっ!」
「いや俺だ!葵様を幸せに出来るのは俺しかいない!」
「テメーなんかに葵様を任せられるか!引っ込んでろ童貞!」
「葵くん!僕の家なら君を十分養えるし幸せに出来る!僕と結婚して下さい!」
何でそうなる。
「抜け駆けすんな!葵くんと結婚するのは俺だ!」
「武藤くん、僕が絶対に君を幸せにするよ!」
「いや、俺の方が葵様を幸せに出来る!結婚しよう!」
葵の恋人候補もとい婚約者候補達は応援席から立ち上がり、ジリジリと距離を詰めるようにグラウンドに足を踏み入れる。
しかも「葵くん、葵くん…」とうわ言を繰り返しながら葵に手を伸ばして近付いて行く。
……何これ?ゾンビ?
軽くホラーなんだけど。
「そ、そんな…、僕は結婚も恋人も必要ないです!来ないで下さい!」
「葵くーん!待ってー!」
「俺と結婚してくれー!」
「無理ですよぉおおお!」
葵を追い駆ける婚約者候補達(仮)と、逃げる葵。
……可哀想。可哀想過ぎる。
いくら葵が可愛いからって、某ゾンビ映画のように追い掛けられたら堪ったものじゃないな。
「アオの親衛隊もやるじゃん!公開プロポーズとかマジウケる!」
「あれって葵の親衛隊なの?」
「うん。アオの親衛隊って普段は大人しいんだけどたまーにハメ外しちゃうんだよね、今みたいに」
「……俺、助けて来るわ」
不憫だし、足遅いし。
これじゃあゾンビに捕まるのは時間の問題だろう。
「待って、俺が行くよ。リカは次出番でしょう」
「いや、でも…」
「大丈夫。アオのことは俺に任せてよ」
ポンッと、未空は俺の頭に手を乗せた。
俺より少しだけ身長が高い未空を見上げる。
「……いいの?」
「リカ可愛い」
「は?急に?」
「だって可愛いんだもん!あ、リカのお題が“恋人”だったら俺のこと呼んでね!アオのこと放置してすぐ戻って来るから!」
「いや、放置はやめてよ」